6.これはとある過去のお話 3
一迅社様から書籍化予定です!
よろしくお願い致します!!
「師匠は――敵討ちのために、闘ってるのですね……」
「まぁ、そういうことになるかな?」
リリスは一連のヴィトインの話を聞いてから、少し悲しげな表情で言った。
師もまた同じく、過去に思いを馳せ、寂しげなそれを浮かべる。屋外での鍛錬を終えて、二人は小屋の中に入っていた。外は昼だというのに薄暗く、間もなく雨が降り出しそうな、そんな空模様。ヴァンパイアと、その眷属である少女にとって、それはあまりよろしいものではない。
決して広くはない一室の中で、二人は無言のままただうつむいていた。
しかし唐突にリリスはこう口を開くのである。
「でも、どこか安心しました」
そう、胸に手を当てて。
「私だけではなかったのですね。師匠も、私と同じだった……」
「………………」
心の底から安堵するようにして。
幼いリリスは、小さな笑みを浮かべてヴィトインを見つめた。
一人ではないということ。孤独ではないということ。同じように家族を失い、同じ目的を持つ存在がそばにいること。
それが、少女にとってどれほど心強かったことだろうか。
「どうか、これからも――」
――よろしくお願い致します。
リリスは消え入るような小さな声でそう言った。
「あぁ、私に出来ることがあるのなら……」
ヴィトインは数秒の間を置いてから、彼女に対してそのように答える。
やや目を伏せて。まるで、何かに迷うようにして。
「……私は、私のしたことの『責任』を取るよ」
そのように、口にしたのだった。
◆◇◆
それからまた、どれだけの月日が流れただろうか。
リリスは少しずつ成長し、外見年齢的には微かに成長を見せていた。
眷属の成長速度はヴァンパイアほどではないものの、通常の人間よりも遅くなる。それでも十年単位で月日を経れば、それなりに大人びるものだ。
「レミアは、どうしているかな……」
そんな我が子のような存在を見て、ヴィトインは本当の娘のことを思い出す。
片時も忘れたことはなかった。忘れるはずがなかった。ただそれ以上に、自分には為さなければならないことが、その『責任』が出来たのである。
それを今は、語るべきではないのかもしれなかった。
それでもいつかはリリスにも、そしてレミアにも告げることにしよう。
そう、思っていたある日のこと……。
「今日は早く帰れそうだな。リリスもだんだんと眷属としての身体に馴染んできたみたいだし、食事も血肉の多いものに変えていかないければ……」
狩りを終えて、ヴィトインは帰路についていた。
そうして間もなく、二人の暮らす小屋へとたどり着く。その時だった。
「し、師匠……っ!」
「なんだ……?」
行く先から、リリスの声が聞こえてきたのは。
目を向けるとそこにあった光景は――。
「――リリスっ!?」
重装備で固めた数人の冒険者。
そして、その冒険者に取り押さえられるリリスの姿だった。
「おや、どうやら本命が帰ってきたみたいだな」
冒険者の一人がそう口にする。
「何者だ……!?」
ヴィトインはその冒険者たちに向かって声を荒らげた。
だが、それを受けても彼らはまったくもって動じることなく答える。
「分かっているだろう? 我々は――」
静かに、ニヤリと口元を歪めて。
「――神に使わされし、ヴァンパイアハンターだよ」




