3.父と娘の再会
――レミア、なのか?
ヴィトインさんは、少女を見るとすぐにそう口にした。
目を見開いて、まるで信じられないようなものを目の当たりにしたかのように。そしてすぐに、歓喜に満ちたような笑みを浮かべて、大きく手を広げた。
「レミア……! 私の愛しき娘よ!!」
言って、彼は瞳を潤ませる。
だがそれに対して、娘さんの方は違う反応を示すのであって――。
「この……」
――彼女は、拳を握りしめて父親に突進した。
そうしてこう叫ぶのだ。
「……馬鹿親がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」――と。
「ぶへらっ……!?」
放たれた一撃は、無防備なヴィトイン氏の顔面を捉えた。
なんとも不細工な声を発しながら後方へ吹き飛んだ彼は、床に転がりもんどりうつ。それだけでも十二分に痛めつけられているように思われたのだが、
「娘を三百年も放置して、どこをほっつき歩いていたのだぁ!!」
レミアさんのお怒りは、収まらない様子である。
起き上がろうとするヴィトイン氏に馬乗りになった彼女は、その顔面めがけて、執拗に拳を振り落す。父親の方も必死にガードするのだが、娘の方が一枚上手。
その隙間を掻い潜るようにして、的確に攻撃を加えていった。
「あ、あの……」
ボクはその様子を眺めて、しかし声をかけようにかけられなかった。
レミアの激情は、それこそ抑えきれないもののようだ。
「本当に、本当に……! 妾がどれだけ寂しい思いをしたのか……っ!!」
声を震わせながら、その鉄槌を振るう。
「どれだけ、心配したかも……知らないのであろう!?」
涙声になりながら。
ヴィトインさんに向かって、三百年の思いをぶつける。
「なにか、釈明があるのなら言え!!」
そして、最後にそう言った。
ようやく拳が止まり、少女は肩で息をする。
そんなレミアの様子を見て、ボクは申し訳ない口調で声をかけた。
「あ、あの……。レミア?」
「カイルは黙っていてくれ! これは、親子の問題――」
「――いや。そうじゃなくてね?」
すると彼女は、こちらを振り返ってそう言う。
だがしかし、ボクはそれを遮って、一つの事実を少女に告げた。
「ヴィトインさん、もう気を失ってるから……」――と。
◆◇◆
「いやぁ、すまないね! 娘がいつもお世話になっているようで!」
「え、あぁ。いや……こちらこそ、いつもお世話になっています」
小一時間経過して。
ヴィトインさんがようやく目を覚ました。
あらかた簡単な治療を施して、今に至るのだが、彼は娘であるレミアにボコボコにされたことを全く気にしていない様子である。むしろ、清々しい表情。
そんな感じでボクに語りかけてくるものだから、こちらも畏まってしまう。
「二人は何をやっているのだ……」
そんなボクたちの様子を見て、ため息をつくレミアであった。
言われてみれば何とも奇妙な光景である。それに今回、彼に会いにきたのはこんな話をするためではなかった。そんなわけで、ボクは本題に入ることにする。
「あの、すみません。ヴィトインさん……」
そう切り出し、現状について説明した。
リリスさんのこと、そして彼女が暴走して洞窟の奥にいること。
一通りの話を聞くと、ヴィトインさんは顎に手を当てて考え込むのであった。
「……そうか、やはりこの街にいたのだね。リリスくんは」
そして、やや感慨深げにそう漏らす。
同時にボクとレミアは、それを聞いて確信した。
顔を見合わせる。間違いない。リリスさんを『眷属』にしたのは、ヴィトインさんだ。つまり、彼の力をリリスさんに注ぎ込めば、問題は解決するということ。
「お願いです! リリスさんを、仲間を助けて下さい!」
ボクは思わず頭を下げていた。
それを見て、ヴィトインさんは静かにこう言う。
「それは、もちろん。私がこの街にきた目的もそれだからね……」
「本当ですか!?」
「あぁ。だが、一つだけ……」
喜び面を上げる。
しかし、そこにあったのは難しい顔をしたレミアの父の姿であった。彼は一つ頷いて、ボクとレミアをそれぞれ見てから、こう話し始める。
「おそらく、リリスくんは私のことを殺しにかかるだろうね」――と。
それは、たしかな事実であるように。
「え……?」
ボクは無意識に声を漏らす。
そんなこちらを見て、ヴィトインさんはこう続けた。
「一つ、昔話をするとしようか」
一度目を閉じてから、開く。
「これは、ちょっと前のこと。百年ほど前の、出来事だ……」




