3.手がかり
「ダースよ。先日言っていた、もう一人のヴァンパイアについて教えてくれ」
孤児院の中に入ると、レミアが単刀直入にそう口にした。
ボクは彼女の隣に座って、院長の顔を見る。するとそこには、今までに見たこともない程に真剣な彼の顔があった。だが、そんなことよりも……。
「でも、ちょっと待って。どうしてそんな話を院長が知ってるの?」
こちらには、そんな疑問があった。
少なくともボクの知っているダース・ミリガンという人は、少し変わってるけど優しい、そんな男性だ。過去には名うての武器職人だったということは知っている。けれども、このような情報を扱っているような、そんな印象はまるでなかった。
「カイルよ、このダースという男はな――」
「――待って、レミアちゃん。その先は、私が話します」
ボクの言葉に少女が答えようとすると、それを遮る院長。
彼は少しだけ息をついて、こう言った。
「カイルちゃん。私が昔、世界各地を回ってたのは教えたわよね?」
「え、えぇ……それは、知ってるけど」
だけど、それが何を意味するのか。
首を傾げていると、一つ頷いてから院長はこう口にする。
「武器職人、というのは嘘。私は、元ヴァンパイアハンターなの」――と。
◆◇◆
院長の話はこうだった。
過去に自分は、世界各地を転々としながらヴァンパイアを探していた。実際に遭遇したこともあり、また戦ったこともある。圧倒的な力の前に何度も屈したが、仲間と共に立ち上がり続けたのだという。
そして、その仲間たちとは今でも連絡を取り合っていた……。
「その時に、話題に上がったの。ヴァンパイアは未だにいる――と。私はレミアちゃんのことと最初は思ったけど、身体的特徴を聞くにどうにも違う」
「それって、つまり……」
ボクがそう訊き返すと、院長は一つ頷く。
「名前はまだ分からない。でもね、確実にもう一人は……存在する」
ハッキリと告げられたその言葉に、息を呑んだ。
まさか、こんなところから情報を得られるとは思いもしなかったし。それに加えて、院長が過去にそのようなことをしていたなんて、驚きだった。
「それで、その者の特徴について詳しく分かったのか?」
「えぇ。かつての仲間に、確認を取ったわ」
レミアが訊ねると、院長はそう答える。
そして、静かにこう口にした。
「性別は、男よ。長い銀の髪に、赤の瞳。背は高く黒の外套を羽織っている」
「………………」
それを聞いて、レミアが何か考え込んだのにボクは気付く。
しかしその理由を問う前に、院長が決定的なことを言った。それは――。
「そのヴァンパイアの名前は――ヴィトイン」
「――――――え?」
いつか、ほんの少し前に耳にした名前。
EXランクに昇格した日の夜。偶然に出会った人の名前だった。
「ヴィトイン……」
レミアも、その人の名を繰り返す。
しかし彼女の声色からは、なにか別の感情が滲み出しているような。そんな気がした。
「その人を探せば、リリスさんは助かるんですね?」
「それはまだ分からない。リリスちゃんを『眷属』にしたヴァンパイアが、その人なのかはまだ確証がないの。だから、これから居場所を特定するわ」
「分かりました……。よろしくお願いします!」
ボクは言って、立ち上がる。
もしかしたらあの日の彼かもしれない。
だとするならば、ボクにも出来ることが幾らかあるはずだった。
仲間を――『家族』を救い出すために。
いつもありがとうございます。
また、遅くなり誠に申し訳ございませんでした。
<(_ _)>




