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2.行方不明のリリス






 ――懐かしい夢だった。

 リリスは洞窟の冷ややかな空気に目を覚ます。

 どうやら、いつの間にやら眠ってしまっていたらしい。彼女は身を起こして、周囲の確認を行った。すると気付くのは、自分が単独で突き進んできたこと。


「なにを、やっているんだ。私は……」


 奇行としか言えないそれ。

 彼女は思わず我を見失った自分を恥じた。

 そして考える――今は、何階層なのだろうか、と。


「早く、戻らないと。カイルさんに迷惑をかけてしまう。でも――」


 立ち上がろうとして、リリスはふと思った。

 たしかに、自分の取った行動は恥ずべきものである。それでも、


「――あぁ、本当に。貴方は生きておられたのですね、ヴィトイン卿」


 心から、嬉しかった。

 思わず泣き出してしまいそうになるほどに。

 リリスはまるで恋する少女のそれのように息をついて、自らの肩を抱きしめた。そして、もう一度その人の名前を呟く。


「会いたいです、ヴィトイン卿――そして、約束を」


 彼女の口から漏れ出した『約束』という言葉。

 それの意味を理解しているのは、おそらくリリス以外にはその人しかいなかった。それでもある傍観者・・・は、そこに潜む矛盾を感じ取ったのだろう。影より、少女となったリリスを見た深淵の者は、小さくほくそ笑みながらこう言った。


『あぁ、なんとも美しく歪んだモノですね』――と。


 そして、誰にも覚られずに姿を消した。

 リリスだけがその場に残り、束の間の懐かしさに身を委ねる。

 『約束』の成就が果たされることを夢見て、彼女はまた歩き出すのだった。



◆◇◆



 リリスさんがいなくなってから、三日が経過した。

 ボクたちはリビングに集合して話し合う。テーブルを挟んで向かい側に、右から順にレミア、エリオ、ニナ、そしてココ。全員が神妙な面持ちで下を向いていた。


「進展はなし、か……」


 この三日間、全員がそれぞれに彼女のことを捜索してきた。

 レミアも文句を一つも言わず、エリオは自身の情報収集能力を駆使して。給仕の二人も、それぞれの特性を活かして捜索に当たってくれた。

 それでも、リリスさんは見つからない。


 彼女にいったい何があったのか。

 それはきっと、彼女にしか分からない。

 そうだとしても仲間だ。ボクたちは、決して無視できなかった。


「あの、カイル様。これ、ギルドからです……」

「ん? ギルドからの書状……?」


 さて、その時。

 皆が難しい顔をしている中で一人、困惑した様子で声を上げた少女がいた。獣耳を生やしたニナだ。彼女はおずおずと、少し怯えながら一枚の紙を差し出す。

 それは、ギルドからの招集状だった。


「えっと、なんだろう。ボクたち、何も変なことはしてないと思うけど……」


 ギルドの招集状は主に、問題を起こしたパーティーに送付される。

 でも心当たりのないボクは首を傾げつつ、その書面に視線を落とした。そして、そこに書いてあった内容に眉をひそめることになる。

 何故なら、その内容というのは――。


「――緊急クエスト、だって?」


 ギルド指定の、緊急クエスト。

 それは特定の基準を満たしたパーティー、あるいは冒険者に出されるモノ。つまりは通常よりも危険な内容になるのだが、その中身というのが書かれてなかった。

 詳しくはギルドで説明する旨。それだけだった。


「カイル、どうするのだ?」

「行くしか、ないかな。リリスさんは心配だけど……」


 いつの間にか隣から紙を覗き込んでいたレミアに、そう答える。

 そうと決まれば、さっさと済ませてしまおう。ボクはそれを態度で示すように立ち上がった。早く片付けて、リリスさんを探そう、と。




 でも、思ってもみなかった。

 その緊急クエストの内容が、あんなものだったなんて――。



 


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