2.ルゥの主張
「キュ、キュキュキュ!」
「ルゥ? どうしたの?」
「キュキュキュ、キュ!」
さて。食事を終え、改めて一日を始めようと思った時だった。
子ドラゴン――使い魔のルゥが、草葉の陰から飛び出してきたのである。
我が家の庭はそこそこ広く、専属の庭師も雇っていた。遠くへ視線をやれば、そこには禿げ上がった老人が草木の手入れをしている姿が見える。
そんな中を突っ切って、ルゥはボクの肩に乗ってきた。
「ルゥが何を言ってるか分かる? ボクにはさっぱりで……」
「ふむ。様子からして、腹が空いているわけではなさそうだな」
レミアはルゥの様子を見て、そんな風に言う。
たしかに彼女の言う通りだった。餌が欲しい時は服を引っ張るのであるが、今回はそれがない。首を傾げるばかりで、なにを要求しているのかが分からなかった。
しかし、そんな時。一人の少女の声が聞こえてきたのは。
「あ! ルゥ、こんなところにいたです!」
「……ニナ?」
それはヴァーナの少女――ニナだった。
彼女はパタパタと手足、そして猫耳を動かしながらこちらへやってくる。
「もう、ルゥはこっちです! カイルさまのお邪魔をしちゃダメですよ!!」
そして、ドラゴンの尻尾をぐいっと引っ張るのであった。
「キュキュキュ!!」
「そんなこと言っても、ダメなものはダメなのですぅ!」
「キュキュ~っ!?」
「文句は後で聞くのです! 今は戻るのです~っ!!」
争う少女とドラゴン。
そんな一人と一匹を見て、ボクは一つ疑問に思った。
「あれ? ニナは、ルゥが何を言ってるのか分かるの?」――と。
そうだった。
今の口振りから察するにこの少女は、ドラゴンの言葉を理解している。
それは素直に驚きだった。しかしニナはこれといって気にした様子もなく、首を傾げる。そしてボクの顔をじっと見つめて、こんな説明を始めるのであった。
「あー、えっとです。ヴァーナは魔物の言語を理解できる種族なのです。だからルゥが、今なにを言っているのかも分かるのです!」
「へー、そうなんだ。それじゃ、ちなみに今はなんて言ってるの?」
「えっと……ですね?」
その話を聞いて俄然、興味を持ったボクはニナに訊く。
すると彼女は少し困った表情になった。
「どうしたの、ニナ?」
「あー、うんとですね。これは……」
首を傾げると、少女は頬を掻く。
しかし、やがて意を決した表情でこう言うのであった。
「そのー……『オイラ、このままじゃ出番が減る一方だよ!』、って」――と。
それはなんとも言えない叫びであった。
たしかに、ルゥの気持ちも分かってしまう。先の戦いでは連れていくと危険だと判断し、待機命令を出した。そのことによって、どうにも出番が減ってしまっている。可哀想ではあったが――うむ。致し方ないことであった。
「…………ふむ」
「む? どうしたのだ、カイルよ」
しかし、そんな様子を見ながら考え込んでしまう。
そうするとレミアがどうしたのかと、こちらを覗き込んできた。
「……よし! 決めた!」
そこで、ボクは結論に至る。
レミアは少しビクリとするが、気にする暇はなかった。
決まったならば、善は急げ。ボクはニナとルゥに向かって、こう告げた。
「特訓をしよう!」――と。
それは突発的に決めたこと。
でも、まさかそれがあんな大事になるとは思いもしなかった……。




