2.故郷にて
あとがきに告知があります。
「あら、カイルちゃんにレミアちゃん! おかえりなさいっ!」
「ただいま、院長!」
「邪魔するぞ」
孤児院に到着すると、掃き掃除をしている院長――ダース・ミリガンがボクたちを出迎えた。満面の笑みを浮かべて、彼はこちらを見つめてくる。
それにボクも微笑みをもって答えた。傍らの少女は、どこか緊張したように。しかし、それでも少し目を細めていた。心の底では、快く思っているのであろうか。
「カイルちゃん、レミアちゃん。噂は聞いてるわよ? EXランクに、Sランク――本当におめでとう! 私もとても嬉しいわっ!」
歩み寄ると、院長はそんなことを言ってくれた。
ボクとレミアは顔を見合わせて、自然と頬をほころばせる。
「ありがとう、院長。これでもっと孤児院の力になれると思うよ」
「あら。またそんな……本当に孝行息子ね、カイルちゃんは」
「そんなことないよ。当然さ」
こちらの言葉に院長は少しだけ瞳を潤ませた。
その姿にボクも思わず感極まってしまいそうになるが、ぐっとこらえる。
「さぁ! こんなところで立ち話もなんだから、早く中に入りましょ?」
さて。そうしていると、院長はそう言って僕たちを促した。
「うむ。今日は日差しが強いからな――ダースよ。冷たい飲み物を頼むぞ」
「ふふふっ。レミアちゃんは正直ね!」
その言葉にレミアが遠慮なくそう答える。
院長もその無遠慮をむしろ歓迎するように笑って、手招きをするのであった。
新しいパーティーに入ってから二度目の里帰り。それはこれまでの苦労を忘れさせるような、温かな色に包まれているのであった……。
◆◇◆
「そうなの。レミアちゃん、ヴァンパイアだって話したのね」
これまでの経緯をかいつまんで説明していると、院長はそう小さく言った。
「えっ……院長は知ってたの?」
「ふふっ。乙女の勘、よ」
その言葉に思わずそう口に出すと、彼はどこか嬉しそうにウィンク。
「漢女、じゃないのか?」
その折になにか、レミアの方からそんな声が聞こえた。
だがその意味を理解できなかったため、ボクは首を傾げることとなった。
しかし、何はともあれ。院長がレミアの正体に気付いているとは、とても意外なことであった。いったい彼は、どこでその事実に思い至ったのだろうか。
……うん。さすがのボクでも、乙女の勘が嘘だって分かるよ?
「それで、院長はどうして……」
「……………………」
ボクがそこまで口にすると、途端に院長は口を閉ざした。
レミアの方を見て、ふっと一つ息をつく。
「それは、今は話せないの。レミアちゃんに確認を取らなきゃいけないことがあるから」
「レミアに……?」
そして、そう言葉を紡いだ。
思わず隣の席に腰かける少女に目を向けると、彼女はどこか真剣な表情。
どうやら、ボクが簡単に踏み込んではいけない話が、二人の間にはあるのかもしれない。空気がピリピリと肌を刺す感覚が、これでもかと伝わってきた。
「まぁ、いまはそのことは忘れましょ! それよりも――」
が、次の瞬間には一気に弛緩する。
パンっと、両手のひらを合わせた院長は朗らかな笑みを浮かべるのであった。そしておもむろに、とある縦長の包みを取り出す。
「――カイルちゃんに頼まれていたモノ。出来たのよっ!」
院長はそう言って、それを解いた。
すると中から姿を現したのは、あのエンシェントドラゴンの鱗をもとに作り上げられた――。
「……こ、これは!」
「って、ちょっと待てぇい!?」
――と、その時だった。
レミアがそれを見て、思い切りツッコみを入れてきたのは。
ボクと院長は何事かと彼女を見る。するとそこにあったのは、呆れているような、困惑しているような、何とも言えない表情。
そんな状態で、レミアは叫ぶ。
「何故に、よりにもよって杖なのだぁっ!?」――と。
包みの中から出てきた、荘厳な輝きを放つ杖を指差して。
「何故に杖!? カイルはどうしてあの事件、一連の流れの末に、そこに舞い戻っておるのだ!? お主の適性はどう考えても……!」
「え、でも。この杖があれば、ボクももっと魔法使いらしい活躍が――」
「――出来なくても良いわ、たわけ! というか、まだ諦めてなかったのか!?」
少女は、ボクに発言する暇を与えず矢継ぎ早にそう言った。
――何か変なことしたのかな、ボクは。
「ふふふっ、二人とも仲良くなったわねっ」
怒るレミアとボクを見て、院長は嬉しそうに笑っていた。
仲良く見えるのかは謎であったが、とにもかくにも。ボクはしばらくの間、謝罪を続けるしかなさそうだった。理由は、てんで分からないけれど……。
そうして、緩やかに時間は過ぎていく。
ボクの新たなスタートは順調に、そう思えた……。
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『我が家の神様はネトゲ廃人。~それなのに縁結びって、無理でしょ!~』
ラブコメを投稿いたしました。
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