1.EXランク
ボクのランクがEXに位置付けられたことは、すぐに街中に知れ渡った。
その者に並び立つ者なし――そう評価され、言い渡された到達点。ボクはそれについて心躍ることはなかった。それよりも、不安の方が大きい。
果たして自分は、この地位に相応しい者なのかどうか。
そのことを考えると、なかなか素直に喜ぶことはできなかった。
「なにを難しい顔をしているのだ? ――カイルよ」
「……ん。あぁ、レミア」
そのためだろう。
どうやら、ボクは隣を歩く少女に心配されるような表情をしていたらしい。
彼女――レミア・レッドパールは、その赤い瞳に心配そうな光を宿しながらこちらを見てきた。傘の陰に入っているものの、彼女の透き通るような白い肌には目を奪われる。風になびく真紅の髪を押さえつつ、少女は首を傾げるのであった。
「何か心配事があるのであれば、妾に相談するがよい。なんでも聞くぞ?」
「いや、そんなに大したことじゃないから。大丈夫だよ」
「心配事に大きいも小さいもなかろう」
「あ~……うん。そうだね」
心配をかけまいとしたボクであったが、完全に裏目に出たらしい。
仕方なし。ここは、レミアの厚意に甘えるとしよう。
「自分が本当に、その評価に値するのかって不安になったんだ……」
そんなわけで、ボクは素直に心情を吐露した。
少し情けない話だけど。レミアはそれを馬鹿にすることなく受け止めてくれた。
「……ふむ。なるほどな」
呟いて顎に手を当てて何かを考え込む。
そして、しばしの時間を置いてからこう言うのであった。
「それを言うならば、妾も不安だ。カイルと同様に妾もランクアップしたであろう? それこそ、一気にSランクにだ。果たして、自分にその値打ちがあるのか不安で仕方ない」――と。
レミアはボクと時を同じくして、ことを告げられたらしい。
異例の昇格。今日からは、彼女もリリスさんと同じくSランクの仲間入りだった。けれども、少女はそのことが不安だという。しかし、ボクにとってはそのことが不思議で仕方がないのであった。何故なら――。
「――レミアは間違いなく凄いって、ボクは思うんだけど」
そう。ボクからしてみれば、彼女はとても優秀な魔法使いだったから。
文献にしか残らない魔法を駆使し、かつ通常のそれも並外れた威力を誇っている。それは魔法使いとして、三流以下であった自分とは比べ物にならないもの。
だから、彼女の昇格にボクは違和感を覚えなかった。
「うむ。そうだな――それ故に、妾はSランクに相応しいのだろう」
「へ……? それって、どういう意味?」
と、そこでである。
レミアはまるで手のひらを返したかのように、そう胸を張るのであった。
ボクは思わず間の抜けた声を出してしまう。そのままの流れで問いかけると、彼女は真剣な目つきでこちらを見つめながら続けた。
「妾自身は、自分がSランクに相応しいか分からない。だがしかし、カイルは妾の実力を認めてくれるのであろう? だから、妾はそのことを受け入れられる」
そして、ボクの手を取って言う。
「カイルが不安であるならば、妾が代わりに認めよう。お主は――凄い男だ、と。そうすれば、どうだ。不思議と気持ちが楽にならないか?」
微笑む少女に、言葉を失ってしまう。
仄かに伝わってくる温もりが、凍えた胸に沁み渡っていくかのようだった。
「それとも、妾はお主にとって……そこまで信用ならぬ存在か?」
「い、いや! そんなことはないよ!?」
「ふふっ。そうか、ならば良い」
ボクの言葉にもう一つ、彼女は微笑みを浮かべてゆっくりと手を離す。
名残惜しく感じはしたが、追うことはなかった。それ以上に、少女の言葉には大きな納得を覚えたためである。
「そっか。気にすることじゃないんだ……」
そうだった。レミアの言う通りだった。
ランクという指標は誰かに与えられるもの。そうだと認めた人によって与えられるものであり、決して自分がそこに合わせにいかなければならないものではなかった。自分はあくまで自分。すなわち、ボクはボクでしかない。
EXランクという肩書きが与えられても、委縮する必要なんてなかった。
ボクは今まで通りに、為すべきことを為す。それだけだった。
「どうやら、迷いは振り切れたようだな!」
「うん。ありがとう、レミア!」
彼女のお陰で、どうやら迷いなく進むことができそうだ。
「うむうむ。これから里帰りするというのに、暗い顔をしていてはいけないからな! しゃきっとするのだ、しゃきっと!」
「はははっ、そうだね。うん」
最後に、レミアに背中をパンと叩かれ思わず笑ってしまう。
そうなのである。ボクとレミアの二人は、これからボクの育った孤児院へと赴く。それだというのに、こんなことで悩んでいては、院長に笑われてしまう。
そう考えるに至って、ボクは前を向いた。
「よし。それじゃ、行こうか! ――レミア!」
久しぶりの、二人での外出。
ここから新たにスタートするのだと、そのようにも思えた。
そんなことを考えていたからだろうか。ボクは自然と、少女の手を取っていた。
そして駆け出す。
ここから、新しい日々が始まるのだ――!




