新居での出来事 Ⅱ
「……最近、おかしい?」
レミアはボクの言葉を聞いて、眉間に皺を寄せた。
「うん。そうなんだ……変な視線を感じたり、その……温かったり」
「温かったり……? まぁ、いい。とにかく変なことばかり、ということだな?」
ボクの言葉に、彼女はひとまずの納得をしてくれる。
どうやらこちらの主張を信じてくれたらしい。それでもどこか、腑に落ちないといった表情を浮かべており、考え込んでいた。そして、こう言う。
「ふむ。しかし、妾の身にはおかしなことは起きていない。それに変な視線も身に覚えがない。つまりはカイルのみを狙った犯行、ということなのだが……」
状況を整理するレミア。
こちらはその落ち着いた意見に、一つ安堵しながらうなずいた。
「そういうことに、なるね。でも、どうして……ボク?」
でもすぐに、新しい疑問が浮かんでくる。
少女に問いかけると、その口からはこんな言葉が飛び出した。
「もしかしたら、このパーティーに恨みを持つ者の犯行かもしれん」――と。
それはつまるところ、先の一件でボクたちによって不利益をもたらされた者、ということになる。それならば身に覚えがないわけでもない。
「パーティーの主戦力であるお主を闇討ちしようと、目論んだか……」
「でも、それならなんで……温いんだろう」
「だから、温いとは?」
パーティーの主戦力。
たしかに、冒険者ランクはボクが一番上だった。
だがしかし。ともすれば、やり方が甘い。甘すぎるのであった。昨日の夜なんかはボク一人で、しかも魔法学の本に夢中になっていたため、隙だらけだったに違いない。だというのに、犯人はそんなボクの首を狙わずに――考えたくもないが、ベッドを温めていたのである。
それは、命を狙うというよりも――。
「――まぁ、とにもかくにも、だな」
そう考えていると、レミアがそう言って会話の流れを一度切った。
「仕方ない。妾がカイルの護衛をしてやろうではないか!」
そして、小さな胸を張りながらそう宣言する。
自慢げに。どこか、誇らしげだった。
「……ありがとう。レミア!」
だが、心強いことには変わりない。
ボクは感謝の言葉を述べながら、少女の手を取った。
「ぬ、ぬぅ……」
「え、どうしたの?」
すると何故か、彼女は頬を赤らめる。
「そう、真っすぐに見つめられると――何やら不思議な感覚になる」
「え? それって、どういう……?」
首を傾げてしまった。
こちらの問いかけにレミアは、自分でも答えを持っていないらしい。とにもかくにも、どこか恥ずかしそうであるのはたしかなのだが、それ以上は分からなかった。
――と。その時だった。
「あ! カイルさん、いたいた~っ!」
「ん、エリオ?」
ボクと、レミアの間に割って入る人物があったのは。
その人物というのは、盗賊の少年ことエリオ。突如として現われた彼は、勢いよくボクらの手を引き剥がすと、満面の笑みを向けてきた。
そして、そんなウキウキとした様子のままに話し始める。
「もう、探してたんですよカイルさん! ちょっとお話したいことがあって!」
「お話……? いったいどうしたっていうの?」
「それは、こっちにきたら分かりますよ!」
「え、ちょ……待って!?」
彼はボクの手を強引に。
説明もないままに、連れられたボクはついつい大人しく従ってしまう。
振り返ると、取り残される形となったレミアはポカンと、こちらの様子を見守っていた。時折、ボクと繋いでいた手を握り締めてみながら。
「…………負けませんからね」
と、そんなことを確認していると、不意に静かな声がした。
その主は間違いない。エリオだった。
「ん? エリオ。いったいどうしたの……」
「いえ、なんでもありませんよ! それより、早く行きましょ!」
しかし彼はこちらの言葉に、そう返事をして先に行ってしまう。
これはどうやらついて行くしかなさそうだ。なのでボクは、不思議に思いながらも駆け足するのであった。それでも、気になることはあるのであって……。
――――どうして、エリオはこんなに息が荒いんだ?
繋いだ手は、どこか汗が滲んでいて。
加えてエリオの鼻息は少し、乱れているように思われた。
この時に、気付けば良かったのかもしれない。
そうすればこの後、あのような恐怖体験をせずに済んだのだから――。
次が幕間ラストです!
よろしくお願い致します!




