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7.ケジメ、そして救済






 ――すべてが、終わった。

 きっと、誰もがそう思っていただろう。

 そう。ここにいる人間の中で、彼だけを除いては……。


「レオ、そろそろ……」


 帰ろう、と。

 ボクはレオに声をかけようとした。


「…………れ、ねぇよ」

「え……?」


 しかし、彼は静かにそう口にして立ち上がる。

 そしておもむろに、クリムの残した黒剣へと歩み寄った。それを拾い上げ、こちらへと突き付けてくる。向けられた視線は力強く、しかし涙に濡れていた。

 レオは、困惑するボクに向かってこう叫ぶ。


「まだ、終われねぇんだよ!」――と。


 彼は唾を飛ばしながら、激昂した。


「仲間がやられたんだ! それを、はいそうですかって、簡単に終われるわけねぇだろうが!!」


 レオはジリ、ジリとボクとの距離を詰めながら言う。

 剣先は震えており、呼吸も荒い。そして、見るからに衰弱しているであろうその表情。とても戦えるような状態でないことが分かった。

 それでも彼は進んでくる。勝てないと、分かっていても……。


「レオ、どうして……」


 ボクにはその理由がまるで理解できなかった。

 でも、それは彼の口から語られる。聞けば、単純なことだった。


 そう、彼が剣を持つ理由。それは――。


「――カイル。ケジメを、つけさせてくれ」


 パーティーのリーダーとして。


「このパーティーがこんなことになったのは、俺が馬鹿だったのが原因だ。クリムも、イリアも、それにカイル――お前にも申し訳ない。だから……」


 仲間たちを窮地に追いやった、その責任を取るために。

 彼は剣を取った。身体がとうに限界を越えていると、そう自覚していても。


「……分かったよ。レオ」


 ボクはその意を汲み取って剣を構えた。

 レオの、その幼馴染みの剣を。彼に引導を渡すために……。


「悪いな、カイル……」

「ううん。大丈夫――行くよ、レオ!」


 ふっと微笑むレオに、ボクは答えて走り出した。

 真っすぐに、幼馴染みへと向かって。


「――――――――っ!」


 繰り出す一撃。

 彼の手から、黒剣が弾け飛んでいく。


「くっ……!」


 その直後に、レオは固く目を瞑った。

 来たる斬撃の痛みに耐えるために。しかし――。


「――あれ? カイ、ル……?」


 いつまで待っても、その時がやってこない。そのことに不安を覚えたのであろうレオは、薄く目を開いた。そんな彼の目に映ったのは、剣を投げ捨てたボク。

 その様子を見て、レオは呆けた表情を浮かべるのであった。


 ボクはだらりと腕を垂らす。

 そして、グッと拳を握りしめて――。


「――うおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


 彼の綺麗な顔面を力一杯に殴り飛ばすのであった。

 その一撃によって、数メイル後方に吹き飛ぶ幼馴染み。ボクは倒れた彼のもとに駆け寄って、胸倉を掴んだ。そして――。


「――カイル、お前……」

「レオ。本当に、よかった……」


 最後は、彼のことを抱きしめる。

 大切な仲間。大切な家族。そして、大切な――一番の友達。

 そんなレオの存在を確かめてボクは、気付けば涙を流していた。ボクにとっての大切な人が返ってきた。その実感で、胸がいっぱいだったのである。


「ごめん。カイル、ごめん……っ!」


 すると、レオもそう言って泣き始めた。





 そこからは、何故か互いに謝罪を繰りかえるだけになる。

 後になって考えると、この様子は全員に見られていたのであった。それだけが恥ずかしかったのだけど、ボクにとってはそれだけ嬉しかったのである……。



◆◇◆



「ほ、本当にか! おま――レミアさん、イリアを治せるのか!?」


 ギルドの処置室。

 そこでボクたちは集まり、その中で唐突にレミアが口を開いたのである。


『妾なら、この娘の症状を治すことができる』――と。


 それを聞いたレオは、目を見開いて少女に詰め寄った。

 レミアは面倒くさそうにしながらも、首を縦に振る。そのことにはボクも、その他のみんなも驚きを隠せなかった。

 何故なら、このヒュドラの毒は治せない、そのはず。そのはずなのに、レミアの表情にはどこか自信と、それと同時に決意が見て取れた。


「レミア、それって。どうやって……?」

「ふむ。それについては、やってみるしかないがな――その前に、だ」


 ボクが声をかけると、レミアはそう言う。

 彼女はレオの方に視線を投げた。


「レオ。お主は、この娘がどうなっても離さないと誓えるか?」


 そして、そう問いかける。

 真剣な眼差しで。相手の気持ちの真贋を見極めようか、というように。

 レオは一瞬だけそれに気圧される形になったが、すぐに決意した表情になった。よどみのないその眼差しを、赤髪の少女に向ける。


「そんなの、決まってる。どんなことになっても、俺はイリアを離さない」


 その言葉には、本当に迷いがなかった。

 今までの後悔と、想い。その二つが、そこには込められていた。


「そう、か。分かった――」


 彼の姿に納得したように、彼女は目を閉じる。

 そして、イリアの傍へと移動した。


「――これは、一種の契約だ。一度結べば、取り消すことのできない契約」


 まるで口づけをするかのように。

 レミアは、イリアの首筋に顔を近付けた。


「妾はこの者の主となろう。しかし、それは魂を縛り付けるものではない。己が生涯を謳歌することを条件とし、幸福を得ることをもって対価となす」


 そう少女は語る。


「レミア・レッドパール――イリアを『眷属』とすると、ここに証明する」


 そして、彼女は鋭い八重歯をイリアに突き立てた。


「お、おい! お前、何をして……っ!」


 レオは突然のことに、そう声を上げる。

 ボクも思わず息を呑んでしまった。何が起きているのか、理解できない。

 だが、その中でも冷静な人が一人いた――リリスさんだ。彼女は前に出ようとするレオを引き止める。首を左右に振り、こう口にした。


「信じろ」――と。


 ただ一言。

 そう言って、彼女は視線を二人の少女に戻した。

 圧倒されたボクとレオ、そしてエリオはただ呆然と行く末を見守る。


「あっ……!」


 その時だ。イリアの身体に、変化があったのは。

 変色していた肌は、みるみるうちに元の色へと戻っていった。

 苦しげな呼吸は穏やかなモノになり、不思議な光が彼女の身体を覆っていく。


「………………あれ、ここは?」


 そして、ついにその瞬間はやってきた。

 苦しみ続けた少女が、死の淵から解放される――その瞬間が。


「イリア……っ!」


 イリアは目を覚ました。

 レオは何も考えられなくなったのであろう。ただ喜びに身を任せて、彼女へと抱きついた。ボクもそれに続く。エリオも、どこかホッとした表情を浮かべた。

 レミアは、ひとまずは安心した、といった感じだろうか。


 訪れたそれは歓喜の瞬間。すべてが、ついに解決をした。

 そんな祝福すべき、そんな時間。



 そう思っていた。

 だから、ボクは気が付かなかった。

 その中で一人だけ、拳を強く握り、震わせていた人がいたことに。








 そのことが、後に大きな火種となることなど。

 ボクは知りもしなかった……。



 


次回から、第一部エンディングに入ります。

それ以降の更新も、今まで通りほぼ毎日予定なので、よろしくです!

<(_ _)>

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