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3.冒険者として






「――クリムは本当に、レオのことが好きなんだね?」


 ボクの声が、ホールにむなしく。

 しかし、その反面に大きく響き渡った。

 この問いかけは、彼女と戦う前にどうしても確認しておかなければならないこと。かつて共に戦った仲間としての、ケジメをつけるための質問であった。


「ふふっ、貴方は変わらないのですね? 私の正体が分かっていても」


 言葉の意図を汲み取ったらしい。

 クリムは一度、以前のような穏やかな微笑みでそう言った。そして――。


「――えぇ。私はレオのことを愛しています。この気持ちに嘘はありません」


 魔族のそれとは思えない、真っすぐな気持ちを口にする。

 いいや。それはボクの偏見なのかもしれない。どんな形であれ、どんな種族でさえ、誰かを愛する気持ちに間違いなんてモノはないのかもしれなかった。


「そっか。それなら、よかった……」


 だから、そこに齟齬が生まれるとすれば。

 それはきっと、互いの愛が譲れないモノであった場合だけ。すなわち――。


「これで、ボクはキミと『冒険者同士』として戦うことができる」


 ――これで、ボクはただ純粋な気持ちだけをもって彼女に挑める。


 ただの冒険者として。魔族と人間だからというような、歪な関係による戦いではなく。本当に純粋な感情だけをもってして、雌雄を決することができるのだった。

 これはケジメであり、決別であり、ただ同時に尊重である。


 ボクがいま、これから彼女を倒すのは『魔族』だからではない。

 彼女との間に、譲れないモノが出来た。

 ただ、それだけ。


「えぇ、そうですね。その感覚が分かる私は――染まってしまったのですね」


 クリムは少し悲しげに笑ってそう言った。

 しかしすぐに、鋭い視線をボクたちへと投げる。


「ですが、殺すつもりでいくことは変わりませんよ?」

「それは分かってるよ。互いに譲れないから、こうなったんだ」


 そして向けられた、鋭利な言葉。

 ボクはそれを真正面から受け止めた。そうするとクリムはまた笑い、


「ふふふっ、それでは――行きますよ! カイル・ディアノス!!」


 叫んで、姿を変える。

 紫の髪は、金とのグラデーションに。

 身にまとうのは黒色のタイトなドレスへ。こちらを睨む瞳は鮮血のような赤となった。そして手には一本の、漆黒の剣を持つ。それが彼女の、魔族としての姿。


 ボクはその変化を静かに見つめて、レオの剣を構えるのであった。


「うん、行くよ! レミアは魔法の詠唱を!!」

「――うむ! 分かった!!」


 そして、後方に控えていたレミアに指示を出す。

 すると少女は、大きく返事をして傘を構え、詠唱を開始した。





「カイル――!」

「クリム――!」


 互いに、鏡合わせのようにボクとクリムは駆け出す。

 それぞれの剣をぶつけ合う。鳴り響くのは、金属の弾ける音だった。



 ホールにはまるで歌うようなレミアの声。

 それとボクたちの打ち鳴らす剣の音だけが、ただただ反響していた――。



◆◇◆



「エリオ、行きますよ!」

「はい!」


 私――リリスは、最奥の部屋で眠っていたレオという青年を担ぎ上げ、赤い絨毯の敷かれた廊下を駆けていた。共に来たエリオは、その私の後ろを必死についてきている。どうやら、この少年は身体能力も中々に高いようだった。


「あとは、裏口から抜け出して――」


 私は言葉にして現状を確認する。

 そうだ。あとは、このレオを連れて脱出すれば問題ない。

 それでも、そんな簡単に事が運ぶはずもなかった。その証拠に、


「――おや。レオ様を連れて、どこへ行こうというのですか?」


 やはり、現われた。

 長い廊下を右に曲がった直後である。視線の先に、奴がいたのは。

 その男――アビスは、不気味な笑みをたたえたままに、ゆっくりとこちらへとやってきた。表現できない威圧感と共に。その存在は、すでに歩く『死』であった。


「……外だ。それ以外に、どこへ行こうというのか」


 しかし、それに私は真っすぐ立ち向かう。

 ここで折れては、カイルさんに合わせる顔がなかった。もとより、アビスがこちらへやってくるのは計算済み。これは私が選んだこと。

 あの日、命を救ってもらった私に出来る――恩返しの一つだ。


「邪魔をするなら、ここでお前を倒す!」


 だから、私はレオを一度下ろしてからそう言って戦斧を構えた。

 勝てる保証はない。むしろ、勝てたら大金星と言っても過言ではなかった。それぐらいの覚悟を持って、私はこの男に挑む。


 その、つもりだったのだが――。


「――おやおや。そのように殺気だっても、私はリリスさんと戦うつもりはありませんよ?」

「なに……?」


 返ってきたのは、そんな意外な反応だった。

 思わず目を丸くして、私はアビスの顔を見つめる。すると分かったのは、その表情からは欠片ほども敵意というものが感じられない、ということであった。


 ――――どういうことだ?


 私はそう思いつつ、戦斧を下ろす。

 するとそれをタイミングを見て、アビスが小さく笑って言った。


「面白いモノが見れますよ? 一緒に、いかがですか」――と。


 そうして、私たちを導くのである。


「リリスさん……」

「あぁ、これは。行くしかない、か……」


 怪しいのには変わりない。

 しかし、この場において私とエリオに選択肢はなかった。そのため、私たちはアビスについて行くことに決めたのである。

 行く先はすぐに分かった。そことは、カイルさんたちがいる正面ホール。


「――さぁ、それでは楽しみましょうか」



 アビスの真意が分からない。

 それ故に、私にとってはその言葉が不気味にしか思えなかった……。



 


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