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2.決戦の前





「館? そんなモノが、本当に……?」

「はい。クリムは現在、そこを拠点として活動しているようです」


 ボクたちは街を出て、ある場所を目指していた。

 それがエリオの調査によって、存在が判明したクリムが住まうという館。

 山の森の中にあるというそこは、今まで誰にも発見されることがなかったという、とにかく不思議なところであった。それこそ、なにか特別な力に守られていたかのように……。


「………………むぅ」

「ん? どうしたの、レミア。そんな膨れっ面して」

「いいや、なんでもない。ただ、打ち捨てたとはいえ、自分のテリトリーを荒されるのは……やはり気持ちの良いモノではないな、とな」

「それって、どういう……?」


 さて、そんなことを考えていると、だ。

 ボクはレミアの様子がおかしいことに気付いた。しかしそのことを訊ねても、彼女はよく分からないことを呟く。思わず首を傾げてしまった。

 レミアはこちらを見ると、一つ息をつく。

 そして、思い出したようにこんな提案をしてくるのであった。


「カイルよ。件の館についたら、その先の案内は妾に任せてくれないか?」

「レミア……? その館のこと知ってるの?」

「あぁ――妾の世界だった場所、だからな」

「ん? それって――」


 ――どういう意味なの?

 ボクはそう問いかけようとした。

 けれども、それよりも先に声を発したのはエリオ。彼は木々の隙間を指差しながら小声で、だがしっかりとした口調でこう告げるのであった。


「カイルさん。あそこです……!」


 それに意識を引っ張られ、見るとその示す先にあったのは古ぼけた建物。

 館というよりは白に近いそれは、森の中で荘厳に構えていた。赤い屋根に広い草木の生い茂る庭。錆びついた門は開かれており、人がいるとはとても思えない。

 エリオはすっとボクに身を寄せると、こう耳打ちをしてきた。


「あの館の、三階の右奥の部屋にレオさんはいます」

「そうなの? よく、そんなことまで分かったね……」

「僕、情報収集だけが取り柄なので! えへへっ!」


 働きを称えるように言うと、少年は花のような笑みを浮かべて言う。

 その姿はどちらかと問われれば、少女のような可憐さであった。しかしなるほど、任せてください、と言ってきただけはあるらしい。

 館のこともそうだけど、彼の能力はなかなかに有用だった。


「だとしたら、そうだな。レミア――どう思う?」

「右奥――か。それなら、裏門から忍び込んでいくのが良いかもしれぬな。そこからが一番、右奥の部屋へは近い作りになっている」

「裏門か。でも二手に分かれるのは、危険だよね」

「いえ、カイルさん。ここは私に任せてはもらえないでしょうか?」

「……リリスさん?」


 ボクが悩んでいると、リリスさんが唐突に名乗り出る。

 振り返ると、彼女は真剣な表情を浮かべていた。


「敵は二人、おそらく正面を固めていると考えます。そしてこちらには、内部構造に詳しい者が二人います。そうなれば、二手に分かれるのも悪い手ではないかと」

「そっか……。だとしたら――」


 ボクはその意見を聞いて、考える。

 そして、決断した。


「――正面はボクとレミア。裏からはリリスさんとエリオに任せます!」



 戦力の配分は、これで間違いないはずだ。

 ボクらはそこで別れて、それぞれの戦いに赴くのであった――。



◆◇◆



 ――狙い通り。

 正面から突入したボクは、そこにいた二人の魔族を見て安堵した。


「あら、これは無作法な客ですわね。そんな方でしたか? カイルは……」


 そのうちの一人、クリムはそう言って笑う。

 ボクとレミアは身構えつつ、周囲を確認した。正面入り口から入るとそこに広がっていたのは、大きなホール。中央には二階へと続く階段があり、左右にはそれぞれ扉があった。クリムはまるで、一人踊るようにこちらへと歩み寄ってくる。

 そして、数十メイル離れた場所にて立ち止まった。


「おや、残り一人。以前に見かけた女戦士がいませんね」

「クリム様。おそらくは裏手に回られたのかと……」

「あら。それは大変――アビス?」

「はい。仰せのままに」


 そんなやり取りを交わすと、その背後に控えていたもう一人の魔族――アビスの姿が掻き消える。どうやら、館の裏へと移動したらしい。

 けれども作戦はすでに成功していると言って良い。

 何故なら、別働隊の二人はボクたちよりも先に館の中へと突入しているのだから。今ごろはきっと、レオのいる部屋へと到着していると思われた。


「ふむ。どうやら、そちらの思惑通りになったようですね」


 そのことに、クリムも気付いたのだろう。

 こちらにやや不機嫌な視線を向けて、小さく息を漏らすのであった。だが、すぐに口角を歪めたかと思えば、そこに禍々しい笑みを浮かべてみせる。

 そして、こう言うのであった。


「さぁ、それでは始めましょうか? お邪魔虫の駆除を――!」


 魔力が高まりを見せるのが分かる。

 その黒き感触は、肌を刺すように伝わってきた。だけど、そんな力を目の前にしてボクは――。


「――カイル!?」

「おや? ここにきて、命乞いでもするつもりですか?」


 警戒を、解いてみせるのであった。

 いいや。正確に言えば、戦闘態勢をやめたに過ぎない。

 では何故、ボクはそんな行動を取ったのか。それには理由があった。戦う前に、どうしても彼女に訊いておかなければならない。問わなければならないことがあった。


 それは――。


「ねぇ、クリム? これだけは、確認しておきたいんだけど……」


 ――そう。

 それは、大前提となる話だった。


「クリムは本当に、レオのことが好きなんだね?」






 その問いかけは宙を舞う。

 そして、かつての仲間――家族だと思っていた魔族。

 クリムとの、戦いの火蓋を切って落とす。切ない響きであった――。



 


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