6.謎の声
「どうにか、逃げ切れたのかな。みんなは……」
ボクは三人の気配が遠ざかっていくのを確認して、そう一人で言う。
そして、目の前に迫る魔物の群れに改めて目を向けた。
「数、増えてるなぁ」
ヒュドラ、アークデイモン、レッドドラゴン――各々に倍増、といったところ。
レオの剣を構えつつ、ボクは後方を見た。どうやら先ほどまであった逃げ道は、完全にふさがれてしまったらしい。凶悪な魔物たちが、虎視眈々とボクの首を狙っている。ここまできたら、もはや寒気もしない光景であった。
「自分の力を過信してるわけじゃないけど――さっきの状況で、残るならボクだったもんね。しんがりには慣れてるし、問題ないけど。この数は、ちょっと……」
――さぁ、どうしようか。
なにかの間違いがあったとしても、SSランクの冒険者になってしまったのだ。この状況くらいは切り抜けなければならない。
そうは思うものの、膠着状態なのは変わらなかった。
いいや。それよりも、問題なのは――。
「――そこに隠れてる人。貴方は敵……ですか?」
そうだった。
あの混戦の中、ボクたち以外に誰かがいた。
それに気付いたのは、パーティーの中でボクだけ。魔物からの攻撃を受けないその人物の存在は異様だった。そのため、すぐにみんなを逃がしたのだ。
ただ、状況的に――始めから狙いはボク、だったみたいだけど。
「おや。気付かれていたのですか――さすがです」
その時だった。
男性の声が聞こえたのは。
「あの少年がいなければ、もっと危機的な状況に追い込めていたのですが。まぁ、多少のイレギュラーはあって当然と考えましょう。結果的には、ターゲットだけを残せたのですから、万々歳です」
そう語る人物は、姿を見せない。
ボクは警戒を解かずに、洞窟に反響するその声の出どころを探った。しかし、それが中々に難しい。何故なら、その声は常に移動している――いいや。そもそも、その声の人物は……。
「……ここには、いない?」
「ご明察です。その洞察力、人間にしておくには勿体ない」
ボクの言葉に、男性と思しき声の主は淡々とそう答えた。
そして、褒めるような口調で自らが人間ではないようなことを匂わせる。
「人間では、ない……?」
「えぇ、そうです。私は『魔族』――人間よりも強く、偉大な種族ですよ」
その疑問に、声は易々と言ってのけた。
まるでここで種明かしをしても、何の問題もないかのように。ボクはさらに警戒心を強めて、意識を集中させた。次いで、動きを止めた魔物たちを見て言う。
「この魔物たちは、貴方が操っているんですね?」
「ご名答です。いやいや、素晴らしい状況判断能力。これまた人間にしておくには勿体ない――さすがは私の言うことを聞かない、小癪なあのドラゴンを倒しただけのことはありますね」
「エンシェントドラゴンのこと、か……」
「その通りです。あははっ……!」
声は愉快そうに笑った。
しかしボクはそれには耳を貸さず、さらに探りを入れる。
「最初からボクが狙いだったみたいですけど、それは何故ですか?」
すると、声の主は途端に笑うのをやめた。
そうしてしばしの間を置いてから、こう答えるのである。
「私の主が、貴方を邪魔だと思っているから……ですよ」――と。
それに対して、ボクは眉をひそめた。
「ボクのことを、邪魔に思っている……?」
「えぇ、そうです。貴方が生きていると都合が悪い、と――そう思っている方がおられるのです。そして、それは一人や二人ではない。貴方は有名人、なのです」
「ボクが……?」
こちらの言葉に、そんな回答。
まったく身に覚えのないボクは、ただ黙することしかできなかった。
だって本当に、理解が追い付かないのである。そこまで善人であるとは思っていないし、もしかしたら色々な人に恨まれているかもしれない。だとしても、生きていると都合が悪いと、複数人に思われているなんて、考えもしなかった。
しかし、それが事実なのであると。
そう言わんばかりに、声の主はこのように語った。
「貴方は自身のことを知らなさすぎる。その出自も、力も、何もかも」――と。
そして、最後にこう言った。
「これから、その一端を見せていただきましょう。なに私の主は貴方が邪魔なようですが、私としては興味深く思っております。ですので――」
まるで、願うようにして。
「――生き残ってみせて下さいね?」
その言葉の直後に、魔物たちが一斉に動き始めた。
声の主の気配は消え失せ、残されたのは大きな謎だけである。
「――――――――っ!」
けれども、そんなことに構っている暇はない。
ボクは剣を構えて、周囲の状況を確認した。今は生存することだけを考える。どうにかして、あの仲間たちのもとに帰るために――!
一日、間を空けてしまい申し訳ございませんでした!
本日からまた、頑張って更新します!!
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