5.撤退戦
終盤はエリオから見たカイルたちの戦闘です。
「――くっ、思ったよりも数が多い!」
ボクはヒュドラの攻撃をいなしながら、そう苦虫をかみつぶした。
周囲の状況を確認する。ボクとリリスさんは背中を預け合い、レミアと少年を守るようにしていた。少年は恐怖に震えていたが、レミアは常に魔法の詠唱を続けている。しかし【ブライニクル】は、そう多発できない。
そのため、少女が放つのはどれも魔力の消耗が少ないモノばかりだった。
「【グラビディ】! ――くそっ、カイル! このままではジリ貧だぞ!」
「分かってる。こうなったら、ボクが!」
「カイルさん!?」
ヒュドラは十数体。
アークデイモンが五体。
レッドドラゴンが三体。
目視で確認できたのは、それだけだった。
もしかしたら奥には、もっと凶悪な魔物も控えているかもしれない。
「キミ! ……えっと、名前は!?」
「え、あ――エリオです!」
ボクはその可能性も頭に入れつつ、しかし同時に少年――エリオに問いかけた。
すると彼は驚き、声を震わせながらも答える。よし――最低限の受け答えが出来るだけの胆力はあるらしい。それなら、一か八かの作戦も決行に移せる。
考えている暇はない。ボクは、パーティーメンバーにも告げた。
「出口の方に向かって一点突破する! レミアは【ブライニクル】の詠唱を。リリスさんはその間、彼女を守ってください! エリオは、合図があったら真っすぐ走って!」
「カイル、お主まさか――」
「――ボクは……!」
固い唾を呑み込んで、ボクは声を張り上げた。
自身を奮い立たせるように。
「活路を切り開く! すべての魔物を引き付ける!」――と。
それは、自殺行為にも近い宣言だった。
「馬鹿か、カイル! そんなことをしては……!」
「さすがに無茶です、カイルさん!」
パーティーの二人が悲鳴を上げる。
それもそのはず。要するに自分が囮となり、しんがりを務めることで全員を逃がす、ということなのだから。著しく生存確率を下げた作戦だった。
「それでも、今はやるしかない!!」
けれども、他に策は思いつかない。
もっと効率的な作戦もあるかもしれないけど、ボクはあいにく頭が良い方ではない。だから、こうやって身を挺することしか考えつかなかった。
「くっ……! 分かった、お主を信じるぞカイル!」
時間にして一秒にも満たない沈黙の後。
レミアは意を決したように、詠唱の体勢に入った。
「カイルさんなら……!」
リリスさんは戦斧を構える。
どうやら、ボクの決意を受け入れてくれたようだった。
「それじゃ、行くよ!」
瞬間の思考の果てに、ボクたちは決死の戦いに挑むのである――。
◆◇◆
――そこから、僕は伝説を超えた者の戦いを見た。
目では追えない速度で、魔物をかく乱するカイルさん。一体ずつを確実に仕留めつつ、確実に注意を引き付けていく。リリスさんも、カイルさんほどではないが、Sランクの名に恥じない戦闘でレミアさんを守っていた。僕はその中心で、ただ震えている。
「すごい……!」
ただただ感嘆の声が漏れた。
震えてはいたけれども、尊敬の心は勝手に口を突いて出た。
これが、僕の目指す人の戦い。これが、僕の憧れる人の戦いだった。
「やっぱりすごいよ、カイルさん……!」
心躍る。胸が張り裂けそうなほどに、恋い焦がれる。
あぁ、あぁ、あぁ! ――この人について行きたい!! 追い付きたい!!
「やっぱり、僕は好きです――カイルさん!」
自然とそう口走っていた。
「貴方のその強さ、優しさ、そのすべてが大好きです! だから――」
「――何を言っているのだ、お主は! 行くぞ!!」
「…………え?」
しかし、それを遮るようにレミアさんがそう叫ぶ。
そして、その直後に――。
「――――【ブライニクル】!!」
急激な冷気が、空間を包み込んだ。
僕は唖然としてその過程を見守っていた。
「走って――エリオ!」
それと同時に、カイルさんの声が響く。
見れば魔物たちの群れにぽっかりと一つ、道が出来ていた。凍り付く幻想的とも思えるその光景に、僕は反応が遅れてしまった。
「エリオくん! 早くっ!」
リリスさんに手を引かれる。
僕はそこに至って、ようやく駆け出した。
「え――――?」
その最中に振り返る。
すると、そこにいたのはカイルさん。
こちらを肩越しに見た彼の口元は、笑っているように見えた――。
作者体調不良のため、明日7月2日の更新はお休みいたします。
次回更新は7月3日の火曜日、昼12時頃になります。
ご迷惑をおかけいたしまして、誠に申し訳ございません。
今後とも何卒よろしくお願い致します。。。
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