9.絶望と暗躍の夜
今回、レオとクリムの視点です。
短めです!
<(_ _)>
俺――レオは、あまりに無力だった。
噂にすがり洞窟の最下層を目指したものの、現実は甘くない。
騙し騙しで第十一階層まで行けたが、レッドドラゴン相手に何も出来なくなった。所詮はAランクの剣士ということか。
カイルが助けてくれなければ、間違いなく……。
「……そういえば、カイルはどうなった」
明かりの消えたギルドの中で一人、呟く。
そうだった。あの幼馴染みのノロマは、俺と結んだ約束を果たそうとした。
子供の頃の、取るに足らない会話を『誓い』だと、そう言って。アイツは俺を救い、自ら死地に残ったのである。その後のことは知らされていなかった。
普通に考えれば、Bランク魔法使いのアイツに生還の目はない。
だとすれば、カイルは――。
「――何をやってんだ、俺は!」
そこまで考えて、俺は自分自身に吐き気を催した。
視界が歪むのを感じながら叫ぶ。本当に、俺は何をやっているんだ、と。
目を覚まさないイリアだけでなく、幼馴染みすら失ってしまうのか。自らの愚かな行いによって大切なモノが、大切だったはずのモノが、手から零れ落ちていく。
「――――――――――」
頭の中が真っ白になった。気付けば、涙が頬を伝っていた。
すべての人に対する申し訳なさと、自身の不甲斐なさに。無力な俺は涙するしか出来なかった。もうどうしようもない――何も、無意味なんだ、と。
「…………レオ?」
その時、俺の頬に触れる手があった。
うつむいたこちらの顔を持ち上げると、そっと柔らかな感触をもたらす。唇から離れて行ったそれは、少しずつ正体を明かしていった。
「クリム……?」
「えぇ、そうです。私はここにいますよ……?」
瞳を潤ませた女性――クリムは、熱っぽい息を吐き出してそう言う。
彼女は俺のことをそっと抱きしめ、背中を撫でてくれた。
「大丈夫です。二人がいなくなっても、私が貴方の傍にいますから……」
そして、続いたのはそんな言葉。
そこまでくると、もう我慢の限界になっていた。
「くっ、うぅ……!」
肩を揺らして、俺は泣き始める。
そんな子供のような俺を、クリムは優しく包み込んでくれた。
確かなその熱はひび割れた心を癒してくれる。俺にとっては、唯一の救いだ。
「レオ? 貴方は、少し休んだ方がいいです。私の家で……」
そして、救いは道を示してくれた。
疲弊し切った俺に、慈愛に満ちた声をかけてくれる。
この時の俺にはもう。
クリムの言葉に従うほかに、選択肢は――。
「――あぁ、ありがとう。クリム」
残されて、いなかった……。
◆◇◆
――――あぁ! あぁ、あぁ!!
レオ! レオ、レオ、レオ、レオ、レオレオレオレオレオレオレオレオッ!!
可愛い。なんと愛おしいのでしょうか、この青年は! あまりにも無様で、情けなくて、私以外に頼る他ない弱々しい姿!! 可愛らしくて仕方ない!!
ヴァンパイアを単独で捜索に向かった時は、どうしようかと思った。
でも、そんな馬鹿な姿もまた可愛らしくて胸が締め付けられる。そして、そんな彼が手元に戻ってきてくれたのはきっと、神の導きに違いなかった。
「大丈夫ですよ。私は傍にいますから……」
ベッドで静かに寝息をたてる彼を見ながら、私はそう言う。
そして立ち上がり、客間を出た。廊下を歩いていると、右手に窓。
見れば映っているのは、私の美しい顔だった――しかし、一点を除いては。
「あ、あら……? こんな笑い方、はしたないですね」
口角が、三日月のように吊り上っていた。
醜く歪んで、なんともみっともない。
でも――。
「――くっ、くくくくくっ、くけけけけけけけけけけけけけけけっ!?」
もう、堪え切れなかった。
もう、我慢の限界だった。
「さぁ。こうなれば、あとは仕上げですね……」
私は窓を開く。すると、風の塊が飛び込んでくる。
空中を舞う水滴が、月明かりに照らされて輝くのであった。それは本当に私を祝福する光のように感じられる。今はすべてが私の味方をしてくれていた。
さぁ――準備をしましょう。
邪魔者二人を消す、その準備を……。




