7.規格外vs規格外
――灼熱。
エンシェントドラゴンの放つ【ブレス】は、岩をも溶かす。
薙ぎ払うように吐き出されたそれによって、ボクの隠れることのできる場所は次第に限られていった。そして、いよいよ半円状の空間がぽっかりと出来上がる。そこにいるのはボクと、エンシェントドラゴンの巨躯のみ。
『さぁ、いよいよ隠れる場所はなくなったぞ? どうする、人間』
ついに向かい合う形になった時、相手はそう言った。
「――――――――――」
ボクはあえて答えずに、真っすぐに剣を構える。
こうなってはもう、一か八かだ。Bランクのボクの魔法が通じるわけがない。そうなれば、レオが残したこの剣に頼る他なかった。
幸運なことに、彼の剣はボクの身体にとても馴染んでいる。手に取るとその扱い方が、まるで経験したことのように頭の中に浮かんできてくれた。
――――なら、今はその感覚を信じる!
ボクは駆ける。
エンシェントドラゴンの懐に向かって。
『ほほう。自棄になった、というわけではなさそうだな……!』
相手はそう言うと、ボクに向かってまたもや【ブレス】を放った。
今度は薙ぎ払うようなそれではなく、球状のモノ。その火炎弾を計八発。
ボクはそれから目を逸らさず、最低限の動きで回避。背後から聞こえる轟音にほんの少し肝を冷やしながら、それでも足を止めることはなかった。
「――――――――はぁっ!」
そして、最後は思いっ切り左へ飛ぶ。
土煙の中でその行動を取ることにより、エンシェントドラゴンの反応はわずかながら遅れる。その隙を突くようにして、ボクは敵の胴体――その真下に滑り込んだ。ドラゴンの弱点は総じて、その腹部。それはきっと、この伝説の存在も例外ではないはずだった。
――――今だ!
ボクは勢いを殺さないように注意しつつ、剣を突き上げる。
直後に手を伝ってきたのは、柔らかい肉を断つ感触。腕にぐっと力を込めて、剣を振り切った。すると噴出するのは赤黒いエンシェントドラゴンの血だ。
それを一身に浴びながら、ボクはドラゴンの下をすり抜けた。
エンシェントドラゴンの慟哭が響き渡る。
『くあぁっ…………! やるではないか!?』
そして次に聞こえたのは、こちらを賞賛するようなドラゴンの声だった。
『この数千年――我を傷付けたのは、お主で二人目だ!』
その声の直後に繰り出されたのは、長き尾による薙ぎ払いである。
ボクはそれをとっさにジャンプして避けた。
「――――あ、しま……っ!」
しかし、すぐにミスを犯したと分かる。
空中では、次の攻撃をかわすことは出来ない。
『かかったなァ! これでトドメとしてやろう!!』
宙を漂うボクにエンシェントドラゴンは【ブレス】を放った。
それは狙いを過たず、こちらへと迫ってきた。
――――どうする。考えろ、考えろ考えろ……!
このままでは、塵となって終わり。
なにか、逆転の一手はないか――――!
「くっ、こうなったら――!」
出来るかどうかは分からない。
でも、やらなければここで死んでしまうのだ。
ボクは身を翻して体勢を整えた。そして、背後に迫った『壁』の気配を感じる。ギリギリまでこらえ、それが確信に変わるのを待った。
「はああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
――――よし、できた!
ボクは壁を思い切り蹴って、眼前の【ブレス】へと猛進する。
そして、半身を逸らしながら剣で火炎を切り裂いた。
そこからは、一瞬の出来事。
火炎を越えた先に在ったのは、大口を閉じ切っていないエンシェントドラゴン。
ボクは無心で剣を横に払った。感触はない。
会心の一撃であった。
「――――――――」
着地して、ボクは振り返る。
するとそこにいたのは、頭部を失った伝説の姿だった。
心臓の音だけが支配する時間。ボクは、深く息を吸って終わりを見守った。
『見事だ……』
頭の中に響くのは、死にゆく歴史の声。
あぁ、これで終わりなのだ、と。
ボクの胸の中に残ったのは、ほんの少しの悲しさだった……。




