4.約束 Ⅱ
今回、短いです<(_ _)>
『いつも、ありがとうね。レオ』
『なに、良いってことよ。なんたってダチだからな!』
二人でいじめっ子を撃退し、ボクはレオにお礼を言った。
すると彼はどこか恥ずかしそうに鼻を掻きながら、そう答えるのである。
『それにしても、カイルもずいぶん強くなったよな。もう、俺と同じくらい強いんじゃないのか?』
『ううん、そんなことない。レオの方が強いよ』
『へへっ、そうかな!』
レオはボクの言葉に笑った。
でも、それはボクの素直な気持ち。
だから自然とこちらも微笑んでしまうのであった。
『でも、いつもレオのお世話になってると申し訳ないな……』
しかし同時に、その気持ちも本当である。
なので口から勝手に、自嘲的な台詞がこぼれてしまっていた。するとレオは『うーん』と、考え込む。そして何かを思い付いたかのように、こう答えるのであった。
『じゃあ俺がピンチになったら、カイルが助けに来てくれよ!』――と。
『ボクが……?』
『おう。他に誰がいるんだよ』
それは子供の、取るに足らない約束だった。
けれどもボクにとってのそれは、何物にも代えがたい誓い。
『うん……っ!』
だから、元気よく頷いたのだ。
何があったとしても。この誓いだけは、違えない、と。
ボクは、冒険者として以前の誓いとして、それを立てたのであった――。
◆◇◆
――だから、今のボクがある。
レッドドラゴンの攻撃を防いだ際に折れた杖を手に、レオを見る。
彼はその綺麗な顔に、どこか間の抜けた色を浮かべていた。なんだろうか。今まで見たことのない表情に、自然と笑ってしまった。
「――馬鹿! てめぇ、どうしてきやがった!?」
でもレオにとっては、こちらの反応など関係なかったのだろう。
怒りに満ちたそれになり、声を張り上げた。そこにあった感情は果たして怒りだけだろうか。それとも、少しはボクを心配してくれたのだろうか。
それは分からないけど、ボクにはどうでも良かった。
「え、理由はさっき言ったでしょ?」
「ばっか、お前――そんなガキの頃の約束を引っ張り出して!」
何故なら、こうやって。
彼はボクの誓いを憶えていてくれたのだから。
「はははっ! 憶えててくれたんだ。それは、とても嬉しいな……」
「カイル……、てめぇ!?」
ボクが言うと、レオはこちらの胸倉を掴んだ。
しかしその手は震えている。もう、まったくと言って良いほどに力が込められていなかった。――否。もう、込めることができなかったんだ。
それほどまでに、彼はイリアのために戦ってきた。
ならば、ボクはあの誓いに従って――。
「レオ、これ……」
「これは、なんだ……?」
――彼を、助ける。
ボクは【転移の魔法具】を、その一枚の紙を彼に押し付けた。
レオは目を丸くしながら、とっさにそれを受け取る。するとその直後、その紙に描かれた文様は輝きを放った。カランと、彼の剣が倒れる。そして、
「ちょ、おま! カイ――」
次の瞬間。
レオの姿は跡形もなく掻き消えていた。
どうやら【転移の魔法具】は、上手く作動したらしい。
「――大丈夫。あとは、任せてね……レオ」
ボクは折れた杖の代わりに、幼馴染みの残した剣を拾い上げた。
しっかりと手入れの加えられた逸品。これならば、おそらくはレッドドラゴンの急所を裂くことも可能だろうと思われた。
――――まぁ。ボク程度の剣技が、どこまで通用するかは分からないけど。
「それでも、やるしかないんだよね……」
――――そう。あの日、ボクを救ってくれたヒーローとの誓いを守るため。
「……ごめん、待たせたね」
ボクは五体のレッドドラゴンを見上げ、そう口にした。
今のボクは、カイルではない。今のボクは、レオなのだった。
彼の意思を引き継いで、この危機を乗り切ってみせる。
そして必ず、ボクのパーティーの元へと帰る。帰ってみせるのだ。
「――――さぁ。始めようか!!」
自らを鼓舞するように、剣を構えてボクはそう言い放った。
こうして、新たな戦いが始まる。それは、ボクがボクであるために――。




