1.無理難題のクエスト
ここから第二章ということにします。
「む、ランクアップ……?」
「あぁ、そうだよレミアちゃん。昨日まではEランクだったけど、今日からはBランク。凄いねぇ……アタシも受付をやって長いけど、こんな速度で飛び級する子は初めてだよ?」
翌朝、ギルドに向かう。
するとボクたちのパーティは、受付のおばちゃんに呼び止められた。そして言い渡されたのは、そのような内容。レミアは何のことか分からない、と言った風に首を傾げた。なので、ボクが簡単に説明をする。
「冒険者ランクはその前日までのクエストの成果に応じて、委員会で協議された上で決まるんだ。今回はレミアの討伐実績から、昇格になったんだよ」
「……ふむ。誰かさんのお陰で、その実感も薄いのだがな」
「ん? どういうこと、それ」
「気付かぬなら、それで良い」
すると、彼女はどこか不満げに新しいカードを受け取っていた。
ボクはその理由が分からずに首を傾げ、頭の上に疑問符を浮かべることとなる。
「とにかく、おめでとうレミア」
「ぬぅ。そんな無邪気に笑うな、恥ずかしい」
まぁ、何はともあれ。これはめでたいことであった。
やっぱりレミアは魔法使いとしての才能にあふれている。しかも、その理論はまだ改善の余地があるように思われた。
そのことにボクは、自分のことのような興奮を覚えるのである。だから、素直にそうお祝いの言葉を送ったら、どういうわけか少女は顔を背けた。
「……まぁ、いっか。それじゃ、今日のクエストを選びに――」
さて。では、今日も冒険に出かけよう。
そう思って掲示板の方へ一歩、踏み出した時であった。
「――あぁ、カイルくん。アンタにも用事があるんだよ!」
「へ……? ボクに?」
受付のおばちゃんが慌てて、そう呼び止めてきたのは。
何事だろうか。ボクは間の抜けた声を発しながら、首だけ振り返った。
すると視線の先にあったのは、おばちゃんの真剣そのものな表情である。彼女は唾を呑み込んで、深呼吸一つ。こうボクに告げた。
「カイルくん。冒険者委員会が――アンタに話がある、ってさ」――と。
冒険者委員会からの呼び出し。
それは、ボクにとって予想だにしない出来事であった……。
◆◇◆
冒険者委員会は、各街ごとに設置されている運営組織である。
役割としては規則管理に加えて、先ほどのような各冒険者のランク管理。しかし最も重要と言われているのは、その二つよりも――。
「カイル・ディアノス――Bランクの魔法使いよ。キミには今、とある嫌疑がかけられている。心当たりはあるかな?」
――違反冒険者への処罰決定だ。
眼鏡をかけた細身の、初老の男性が椅子に腰かけつつそう言った。
その両脇には屈強な男性が二人控えている。おそらくは、この男性のボディーガードといったところなのだろう。ボクを見るその目は、威圧的なものであった。
「あぁ、自己紹介がまだだったね。私はニール・アクディ――委員会の中でも、冒険者の裁定を任されている者だよ。以後、よろしく頼む」
「…………は、はい」
そんな緊張感のある空気の中、男性――ニールさんはそう言った。
資料を読みつつ、しかしこちらへの警戒心を解かない彼。そこからは、言葉に出来ない迫力が感じられた。優男に見えるが、相当な実力者なのだろう。
そうでなければ、こんな――。
「なに、緊張しなくてもいい。今回はあくまで、事情を聴きたかっただけだ」
――殺気を放つことなんて、出来やしない。
ボクはニールさんの一挙手一投足に息を呑む。緊張するなとは言われても、そんなの無理な話であるように思われてしまった。
精神的に優位に立っていると気付いたのだろう。
彼は、一つ息をついてからこう切り出した。
「さて。それでは、本題に入ろうか……カイルくん。キミは、本当に三十体余りのヒュドラを討伐したのかい? それも、ほぼ一人で。Bランクのキミが?」
「そ、それは……はい。そうです」
「虚偽申告であれば、それは罪となるが? それでも、そう言うのかい?」
「…………はい」
ボクは彼の問いに対して、少し自信を削がれつつ答える。
ヒュドラ討伐の目撃者はいる――リリスさんだ。彼女は昨日、冒険者カードに記載された情報に目を丸くした受付のおばちゃんに、しっかりと説明してくれた。
だから、確信をもって言える。
仲間であるリリスさんが、ボクを騙すはずがなかった。
「……ふむ。なるほど、な」
ニールさんは再び資料に目を落とし、そう呟く。
そして、何かを決めたと言った風に立ち上がるのであった。
「よし。それなら一つ、カイルくんにはテストをしてもらおう」
「…………え、テスト?」
彼の言葉に虚を突かれて、言葉を繰り返す。
するとニールさんはにっこりと笑って、大きくうなずいた。
「あぁ、テストだ。キミの実力が本物であるかどうか――それを見定めたい。そのために、キミには特別なクエストを受けてもらうとしよう」
そして、こう言う。
それはとても、普通とは思えない内容であった。
「キミにはこれより、レッドドラゴンを三体――単独で討伐してもらいたい」
それは、レッドドラゴン――Sランクの魔物討伐クエスト。
無理難題。そう言っても過言ではないモノであった……。




