3.召集令状
「それで、今回はどんな要件なんですか?」
ボクがギルドに赴くと、通されたのは例によってニールさんの執務室。
彼は書類に視線を落としながら、こう答えるのだった。
「いや、すまないね。手続きが大変で――カイルくんを呼んだのも、この手続きと関係があるんだ。少しばかり待っていてくれないかい?」
「はぁ、それは構いませんけど」
「そこのソファーにでも、腰かけていてくれればいい」
「分かりました」
そんな会話を交わして、ボクは着席する。
するとニールさんが、これは関係ない話なのだが、と前置きをしてこう言った。
「宵闇のレーナ、彼女の様子はどうだい?」
「レーナの、ですか?」
「あぁ、そうだ」
それは『元』四魔神である少女について。
こちらが訊き返すと、彼は声だけでそう返してきた。
「様子もなにも、普通ですよ。ボクの家で給仕をしています」
「そうかい。他の四魔神と連絡を取っているようなことは?」
「ないですね。むしろ、こっちに情報を流してくれています」
「……ふむ、なるほど。それなら、問題はないのか」
そう言葉を交わして、やはりギルドの役員として魔族の動向が気になるのだろう、と。ボクはそう思った。
心苦しいが、レーナが元は人間の敵だったことは間違いないのだから。
しかし、家族として最大限、偏見は取り除きたかった。
「彼女はもう、普通の女の子です。本人もそうありたいと、願っています」
「……そうか。それは、結構なことだね」
ボクの主張に、ニールさんは少し手を止めて言う。
やはり、そう簡単にはいかないのだろう。それを肌で感じて、一つため息。
そうしていると相手は話題を変えようとしたのか、こんなことを言った。だがそれは、ボクにとってはとても大きな問題で……。
「しかし、魔族のレーナが普通の人間になるとは。カイルくんの力によるもの、という報告は受けているが――」
「……………………!」
思わず、肩を弾ませてしまった。
自分が何者であるのか、という疑問はボクの中でいま、一番大きな問題だ。
ニールさんは雑談程度に振ったのだろうが、まるで心臓を鷲掴みにされたかのような感覚に陥ってしまう。冷や汗が頬を伝い、表情が硬くなるのが分かった。
すると、そんなこちらの様子に気付いたらしい。
ニールさんは手を止めてこう口にした。
「あぁ、気にしなくていい。カイルくんが何者であるかは、こちらとしては大きな問題ではないのだよ。その辺りは心配しないでくれ」
「……え。それは、どういうことですか?」
ボクは不思議に思って、そう訊ねる。
ニールさんはこう答えた。
「レミアさんは、ヴァンパイアだが人間に敵意がないために黙認している、というのと同じだよ。もっとも、より上層の人間には知らせていないけどね」
「つまり、それは……」
仮にボクが人間でなくても、敵意がないから別にいい、ということか。
そう言いかけて、口を噤んだ。だが、ニールさんはあえて続けた。
彼の考えを、とくに気にした風もなく。
「これは信頼、そして信用だよ。カイルくんたちの功績は、人類にとってかけがえのない財産だ。それを種族などといった些末事で失うべきではない」
「ニールさん……」
少し、いいやかなり驚いた。
ボクは正直、彼は冷淡な思考を持っている人だと思っていたから。
でも、それは思い込みだった。言葉の選び方は論理的であるものの、彼はもっと広い視野で物事を見て、語っている。そして、そこには慈しみがあった。
種族など些末事だ、と。
そう言い切れる人間は、いったいどれだけいるだろうか。
「さぁ、それでは話を進めることにしよう」
ボクが感銘を受けていると、不意に彼はそう言った。
どうやら書類関係のことが終わったらしい。
「それで、改めてボクに何の用なんですか?」
立ち上がってそう問いかけると、ニールさんは再度、書類に視線を落とした。そして、それをこちらに差し出しながらこう告げる。
「カイルくん。キミに、王都から招集状が届いている」
ボクは受け取った書類を見る。
そこには、ハッキリとこう書かれていた。
『冒険者カイル・ディアノスを、勇者パーティーの一員として招集する』――と。




