2.それはただの選択肢。
ボクはレーナを真っすぐに見た。
少女は腹を抱えて笑いながら、踊っている。
「あ、はっはははっはははははっはっははっはは!?」
呼吸を乱して。
その姿から感じるのは、悲しみ、寂しさだろうか。
『それ』を構えてボクは、熱気のこもった空気をあえて胸いっぱいに吸い込んだ。少しばかり苦しい。でも、それ以上の苦しみを今のレーナは抱いているのだ。
「………………」
こうなるのをアビスは予見していたのだろうか。
院長があのような行動を取ることも、レーナが最終的に壊れてしまうのも、そしてボクが――ハリエットの剣を手にして戦う、そのことを。
その上で、もしかしてあのようなことを言ってきたのか。
『カイルさんなら、問題なくレーナ様に勝てるでしょう。ハリエットさんのその剣があれば、ですが――それでも、それは最終手段として考えておくべきかと』
その提案を警戒なく呑んでしまったボクが浅はかだった。
もしかすれば、レーナをここまで苦しめることはなかったかもしれない。だが、そもそもとしてアビスの思惑はいったい何なのか。それが不明瞭にすぎる。
今回は踊らされてしまった。だけど――。
「今は、目の前の戦いに集中する……!」
この時だけは、とにかくレーナのことを考えよう。
鈍いボクにでも分かった。これが、アビスの言っていた崩壊だ、と。
彼女――レーナを構成するものが少しずつ壊れ、そして今、院長が間に入ったことにより自分を見失った。そしてその混乱は、脆いレーナの心を破壊する。
――それを救ってほしい、と。
院長はボクに、そう頼んできた。
その方法というのも、彼女の息の根を止めること。
彼の胸中ではいったい、どのような思いが渦巻いていただろう。自身が不幸にしてしまった少女の、その命を絶ってあげてほしいと、そう口にすること。
それは逃げからくる言葉ではなく。
それはきっと、親身に彼女の行く末を案じての言葉で。
しかし、他でもない自分の願いとして――あまりに身勝手だと、院長は理解して。それでも最後にすがるように、こう口にしたのだ。
『あの子の命を、責任は、私が背負わなければならないのに、ね』――と。
あまりにも苦しげに。
涙を流しながら、そう言ったのだ。だったら、ボクは――。
「それでも、家族の一人として――」
――院長の罪を、共に背負おう。
それは決して赦すと同義ではなく、また罰するとも違うこと。
そもそもボクには、彼の罪を裁く権利がない。それでも、共に歩むことは出来た。院長の言葉を信じることは出来た。そこに善とか、悪とかはなくて。
間違いでも、正解でもなくて――ただ、選択肢の一つだった。
「ごめんね。レーナ――ボクは院長を選ぶ」
だけど、最後の最後にそんな謝罪が出た。
もしもの話だ。もしも、あの日の出会いがもっと前で、少しだけ立場が違っていたのなら。ボクとレーナは友達になれたかもしれない。
でも、そんな仮定は意味を持たないから……。
「行くよ、レーナ!」
踊り狂う彼女に向かって、ボクは駆け出すのだった。
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