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十歳の最強魔導師  作者: 天乃聖樹


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彼女のために

「あ、あれ……? アリシアさん……? ジャネットさん……? ミランダさん……?」


 ガデルの村を覆う魔法結界の外に出たフェリスは、自分が一人になっていることにようやく気付いた。


 周囲を見回してみるが、誰もいない。自分がどこにいるかも分からない。


 絶壁に挟まれた峡谷。薄暗くて、湿っていて、嫌な気配が漂っていて。


「アリシアさーーーーーーんっ!!」


 フェリスは大声で呼ばわるが、虚しくこだまが響くだけで返事はない。ロバートを追いかけている途中ではぐれてしまったのだろう。


 既にロバートの姿は見失っているが、今さらガデルの村に戻るわけにはいかないし、戻る道も分からない。


「ぎょっぎょっぎょっぎょっ!」


「ひゃあっ!?」


 急に近くから変な鳴き声が聞こえ、フェリスは腰を抜かした。


 弾みで水たまりに尻餅をつき、泥まみれになってしまう。


「ふえぇぇぇ……」


 冷たいのと情けないのと心細いのとで、フェリスの目にじわっと涙がにじんでいく。


 トレイユの街ならまだ、学校に帰る方法もあるかもしれないが、ここは魔法学校から遠く離れた異境の地である。


 ガデルの谷を抜ける道も、ナヴィラの山を下りる経路も分からない。いつ敵に出くわすかと思うと、ここから動くのも止まっているのも怖い。


 フェリスは魔石鉱山を逃げ出したばかりのときのことを思い出した。


 あのときは生き残るために必死だったから一箇所に留まっているどころではなかったけど、やはり怖くて仕方なかった。


 アリシアに逢って拾われるまで、フェリスはひたすら一人だけでもがいていたのだ。安心感といったものとは無縁で、その感覚さえ知らなかったのだ。


 いつも感じていることだけれど、アリシアたちの大事さを改めて痛感させられ、フェリスはきゅっと唇を噛んだ。


 帰りたい。逢いたい。アリシアとジャネットの手を握りたい。そんな気持ちに駆り立てられる。


 と、峡谷の先にロバートがよろめきながら歩いているのが見えた。


「ロバートさん!? ロバートさあんっ!!」


 フェリスは一生懸命叫ぶが、ロバートはこちらに気付きもしていない。そのまま、谷底へと歩いて――いや、転がり落ちていこうとしている。


「そ、そこは危ないですよーっ! 待ってくださいっ!!」


 フェリスは呼び止めるが、ロバートは振り返らない。どうも様子がおかしかった。


 大切な人の大切な人を、失うわけにはいかない。


 どんなに怖くても、止まっているわけにはいかない。


「が、がんばってください、わたし!」


 フェリスは必死に自分に言い聞かせ、立ち上がって追跡を再開した。

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