憎悪の系譜
「……というわけで、天界の炎を盗んだレビプラテウスこそがナヴィラの始祖であり、その炎が我らの魂に息づいているのじゃ」
長老が語る。
宴の翌日、ナヴィラ族の里の中央にある屋敷へ呼び出されたフェリスたちは、長老と向かい合って座っていた。
昨夜とは打って変わった、厳格な空気。
ナヴィラの里では床へ直に座るのが習慣らしく、椅子に慣れた少女たちにとってお年寄りの長話はなかなかきつい。
「あぅぅぅ……足がぴりぴりします……コショウはかけてないのに、おかしいです……」
悲鳴を上げるフェリス。
「そ、それは……痺れてるんですわ……わたくしはまったく平気ですけれど……ふぎゃあああっ!?」
強がってみせるもののアリシアに足を握られて悲鳴を上げるジャネット。
「大丈夫、ジャネット?」
アリシアが小首を傾げる。
「大丈夫? だなんて、よくもその口で言えましたわね! わたくしにケンカを売るつもりなら買いますわよ!?」
「ケンカなんてするつもりはないわ。ほら、ちゃんと話を聞かないと失礼よ」
「ふぐぐぐぐぐ……」
アリシアに優しい微笑みを向けられ、ジャネットは歯ぎしりしながらも耐え忍ぶ。
長老は少女たちの闘いを知ってか知らずか、とうとうと語り続ける。
「我らナヴィラは選ばれし天の炎を抱く者。故に、始祖から受け継いだこの地を、ガデルの愚か者たちに渡すわけにはいかぬ。しかれども、奴らは我らの豊かな土地を欲しがり、幾度も侵略を仕掛けてきた」
「歴史書では、土地は元々ガデルのものだったと書かれていましたが……違うんでしょうか?」
アリシアが尋ねる。
「違うに決まっておる! 確かにガデルは一時期この山に棲んでいた……しかしそれは奴らが不法侵入し、侵略していただけのこと! 我らの一族は、それよりさらに太古の昔からここに暮らしているのじゃ!」
長老は激高する。
「ふえええっ!? ごめんなさあいっ!!」
なぜか跳び上がって謝るフェリス。
「いや……すまない。驚かせるつもりはなかったのじゃ」
長老はすぐに我を取り戻すと、咳払いする。
どちらの部族が主張しているのが真の歴史なのかは不明だが、問題は双方が自分こそ正しいと信じ切っていること。長年の闘争でこじれにこじれた泥沼を解決するのは難しいとアリシアは思う。
長老が眉間に皺を刻む。
「そういったわけで、今この山はナヴィラとガデルの争いで荒れている。お前たちの魔術師団長代理とやらは、ガデルの村で囚われの身となっている可能性が高い」
「私たちの部隊もそう判断して捜索したんですが、ガデルの村が見つからなかったんですよね……」
ミランダ隊長が嘆いた。
「恐らく、探求者たちが協力して、ガデルの村を結界で隠しているのだろう。彼奴らの根城を見つけるため、我らは罠を仕掛けることにした」
「わな……?」
目をぱちくりさせるフェリス。
「うむ。あえておびき寄せたガデルの遊撃隊に戦利品を掴ませ、それを少人数で尾行して村を突き止める作戦じゃ。お前たちの仲間を見つけたいのなら、その作戦に参加しても構わぬが……どうじゃ?」
長老はフェリスたちの顔を見回した。




