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十歳の最強魔導師  作者: 天乃聖樹


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ガデル族

 木製の家々からナヴィラ族の戦士たちが飛び出し、矢を弓につがえる。


 戦士たちの中には、女も男も同じくらいの数が存在した。いずれも筋肉質な引き締まった体つきで、露出した二の腕や太ももに不思議な紋様が刻まれている。


 その紋様を輝かせ、ナヴィラ族の戦士たちが次々と弓を引いた。


 地面にはガデル族の兵士たちが押し寄せてきている。狼や犬の毛皮を頭から身にまとい、四つん這いに駆けるようにして進軍する。


 ナヴィラの矢が、空を切って降り注いだ。


 だが、ガデル族の兵士たちは獣のように素早く回避する。矢は虚しく大地を縫うばかり。


 ガデル族の兵士たちが背中の紐から太刀を取り、家々を支える木の幹に叩きつけた。


 鋭い刃で強打を繰り返し、着実に幹を削り取っていく。家々の土台が激震し、組まれた丸太が傾いでいく。


「ひゃあああっ!? 崩れちゃいますよーっ!」


「わわわわたくしに掴まるのですわーっ!」


 悲鳴を上げる少女たち。


「我らの里に触れさせるな!!」


 怒号と共に、ナヴィラ族の戦士たちが木の幹を駆け下りた。


 唸る刃、閃く剣撃。二つの集団が激突し、汗と血の混じった匂いが飛散する。


 ミランダ隊長は少女たちを守りながら、建物の方へと後退する。


「危険地帯だということは覚悟していましたが……こうも早く襲撃に出くわすなんて……。皆さん、私から離れないようにしてください」


 ナヴィラ族の長老が眉を寄せる。


「もしや……お前たちが手引きをしたのではあるまいな?」


「あり得ません! 私はバステナ王国魔術師団の調査部隊隊長、そして彼女たちは魔術師団団長のご息女に魔法学校の生徒たち、ガデル族とは相反する関係です!」


 ミランダ隊長は必死に否定するが、長老の周囲を固める戦士たちからは疑惑の視線が向けられる。無理もない話だ。来訪と襲撃のタイミングが悪すぎる。


「これって……結構まずい感じかしら」


「結構どころじゃありませんわ! 最悪ですわ!」


「どどどどうしましょう!?」


 アリシア、ジャネット、フェリスは身を寄せ合って縮こまる。


 樹上では険悪な空気が漂い、地上では攻防の火花が飛び散る中、森の奥深くから一人のガデル族が現れた。虎の毛皮を被ったその男は、禍々しい杖を大地に突き立て、自らの胸をナイフで貫く。


「あの兵士、なにをしてますの!?」


 ジャネットは目を疑った。


 その男の胸からおびたただしい血が杖に注ぎ、杖がグロテスクに脈動する。


 杖の立てられた地面に赤黒い魔法陣が広がった。


 幾重もの円環が連なった魔法陣から赤い枝が生え、さらに細かい毛根を伸ばして、その先端がガデル族の兵士たちを突き刺す。


 途端、彼らのまとっている毛皮が増殖を始め、人間の皮膚を覆っていく。完全に肌を隠し、継ぎ目すらもなくして、包み込んでいく。


「がるるるるるるるるる……」


 そこかしこから、人のモノとは思えぬうなり声が立ち上った。


 いや、それはもはや人ではない。


 ケモノ……魔獣と化したガデル族の兵士たちに、ナヴィラ族の戦士たちが後じさる。


 ひときわ大きな咆哮と共に、数多の魔獣たちが木々の幹を駆け上り始めた。


 その狂った瞳が、飢えた牙が、住民たちを喰い滅ぼそうとして迫ってくる。


「『探求者たち』に魂を売った愚か者が……!」


 つぶやく長老。


「じゃあ、あれが『探求者たち』の魔導具の効果……」


 目を見張るアリシア。


「人間が……人間じゃなくなっちゃいました……」


 フェリスは声を震わせた。

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