ガデル族
木製の家々からナヴィラ族の戦士たちが飛び出し、矢を弓につがえる。
戦士たちの中には、女も男も同じくらいの数が存在した。いずれも筋肉質な引き締まった体つきで、露出した二の腕や太ももに不思議な紋様が刻まれている。
その紋様を輝かせ、ナヴィラ族の戦士たちが次々と弓を引いた。
地面にはガデル族の兵士たちが押し寄せてきている。狼や犬の毛皮を頭から身にまとい、四つん這いに駆けるようにして進軍する。
ナヴィラの矢が、空を切って降り注いだ。
だが、ガデル族の兵士たちは獣のように素早く回避する。矢は虚しく大地を縫うばかり。
ガデル族の兵士たちが背中の紐から太刀を取り、家々を支える木の幹に叩きつけた。
鋭い刃で強打を繰り返し、着実に幹を削り取っていく。家々の土台が激震し、組まれた丸太が傾いでいく。
「ひゃあああっ!? 崩れちゃいますよーっ!」
「わわわわたくしに掴まるのですわーっ!」
悲鳴を上げる少女たち。
「我らの里に触れさせるな!!」
怒号と共に、ナヴィラ族の戦士たちが木の幹を駆け下りた。
唸る刃、閃く剣撃。二つの集団が激突し、汗と血の混じった匂いが飛散する。
ミランダ隊長は少女たちを守りながら、建物の方へと後退する。
「危険地帯だということは覚悟していましたが……こうも早く襲撃に出くわすなんて……。皆さん、私から離れないようにしてください」
ナヴィラ族の長老が眉を寄せる。
「もしや……お前たちが手引きをしたのではあるまいな?」
「あり得ません! 私はバステナ王国魔術師団の調査部隊隊長、そして彼女たちは魔術師団団長のご息女に魔法学校の生徒たち、ガデル族とは相反する関係です!」
ミランダ隊長は必死に否定するが、長老の周囲を固める戦士たちからは疑惑の視線が向けられる。無理もない話だ。来訪と襲撃のタイミングが悪すぎる。
「これって……結構まずい感じかしら」
「結構どころじゃありませんわ! 最悪ですわ!」
「どどどどうしましょう!?」
アリシア、ジャネット、フェリスは身を寄せ合って縮こまる。
樹上では険悪な空気が漂い、地上では攻防の火花が飛び散る中、森の奥深くから一人のガデル族が現れた。虎の毛皮を被ったその男は、禍々しい杖を大地に突き立て、自らの胸をナイフで貫く。
「あの兵士、なにをしてますの!?」
ジャネットは目を疑った。
その男の胸からおびたただしい血が杖に注ぎ、杖がグロテスクに脈動する。
杖の立てられた地面に赤黒い魔法陣が広がった。
幾重もの円環が連なった魔法陣から赤い枝が生え、さらに細かい毛根を伸ばして、その先端がガデル族の兵士たちを突き刺す。
途端、彼らのまとっている毛皮が増殖を始め、人間の皮膚を覆っていく。完全に肌を隠し、継ぎ目すらもなくして、包み込んでいく。
「がるるるるるるるるる……」
そこかしこから、人のモノとは思えぬうなり声が立ち上った。
いや、それはもはや人ではない。
ケモノ……魔獣と化したガデル族の兵士たちに、ナヴィラ族の戦士たちが後じさる。
ひときわ大きな咆哮と共に、数多の魔獣たちが木々の幹を駆け上り始めた。
その狂った瞳が、飢えた牙が、住民たちを喰い滅ぼそうとして迫ってくる。
「『探求者たち』に魂を売った愚か者が……!」
つぶやく長老。
「じゃあ、あれが『探求者たち』の魔導具の効果……」
目を見張るアリシア。
「人間が……人間じゃなくなっちゃいました……」
フェリスは声を震わせた。




