辺境地帯
「ふえええ……すごい山ですね……」
フェリスはアリシアやジャネットと一緒に、ミランダ隊長に連れられて辺境の山岳地帯を進む。
険しい斜面、ごつごつした岩の数々。少し歩いているだけで息切れしてしまいそうになるが、その斜面は見渡す限り果てしなく続いている。
「ど、どこなんですの、その、アリシアのお父様が失踪した場所というのはっ……」
疲労困憊で倒れそうなジャネットが尋ねる。
先を行くミランダ隊長が振り返った。
「あと三時間ほど歩いたところです。すみません……この辺りは馬も通れないもので。こんなことさせてるって知れたら、グスタフ閣下に怒られそうで怖いんですが」
「ジャネット、ふもとの村まで帰ってもいいのよ? ここに来ているのは、完全に私のワガママなんだから」
アリシアが気遣わしげにジャネットを眺める。
「ふ、ふん! 甘く見ないでくださいまし! この程度の山、わたくしにとってはちょちょいのちょいですわ! あなたばっかりフェリスと仲良くハイキングしようだなんて、そんなことは許しませんわっ!」
背筋をしっかり張り直すと、大げさなほど元気な足取りで歩いていく。
「ジャネット…………」
素直になれない自称ライバルの気持ちが伝わってきて、アリシアは荷袋の紐をきゅっと握り締める。
そのとき、風を切る音と共に、無数の矢がフェリスたちに向かってきた。
「……ッ!?」
ミランダ隊長はすぐさま近くのフェリスを抱え、転がるようにして矢を回避する。地面に突き刺さった矢の羽根を見て、驚きの声を漏らす。
「これは……ナヴィラ族のよく使っている……?」
「ナヴィラ族って、今回の紛争の当事者よね。一応、私たちのバステナ王国と同盟を結んでいるはずだけど……」
杖を握って警戒するアリシア。
木々のあいだから、兵士たちが幾人も姿を現した。バステナ王国の兵士と違って露出度の高い軽装で、大きな弓を抱えている。珍しい、琥珀色の瞳。浅黒い肌に不思議な紋様が描かれているのが特徴的だ。
その中でも目立つ立派な弓と髪飾りの女兵士が、ぎろりとフェリスたちを睨んだ。
「見慣れない連中だな。お前たち、プロクス王国の手の者か……?」
「ち、違います! 私はバステナ王国の魔術師団所属、調査部隊隊長ミランダ・ツテルヒェンです! 旧き盟約に従い、ナヴィラの血に協力を求めます!」
ミランダ隊長は両手を挙げて必死に訴えた。
「確かにバステナの民は我らの同盟者だが……」
女兵士は疑わしげにミランダ隊長の方を見やる。
少女たちは身を寄せ合って縮こまる。
「なんだか、まずいわね……」
「ご、ごめんなさい! 勝手に山に入ってごめんなさいっ!」
「フェリスだけはわたくしが守りますわーっ!」
怯える少女たちの姿に、女兵士がため息をついた。
「プロクス王国の連中なら、戦場にそんな無力な幼子を連れてくるなど阿呆なことはせんか。バステナの間抜け共だけだ、そういう緊張感がないのはな」
「お、お分かりいただけましたか!」
表情を緩めるミランダ隊長。
「阿呆だとお分かりいただけるのも微妙な気持ちだけれど……」
とアリシア。
女兵士が肩をすくめた。
「いきなり攻撃してすまなかった。近頃、『探求者たち』とかいう妙な奴らが我らの宿敵に強力な魔導具を渡して煽っているようなのでな、先手を打たねばやられると警戒しているのだ」
「探求者たちって……あの?」
アリシアは眉を寄せた。
ジャネットが声を潜める。
「最近のいろんな事件に関わっているって噂の教団ですわよね? まさか、今回の紛争も、裏で探求者たちが……?」
少女たちは顔を見合わせた。




