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十歳の最強魔導師  作者: 天乃聖樹


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救援要請

 フェリスが王都から魔法学校に戻って、しばらく経った日のこと。


 アリシアやジャネットと一緒に中庭で昼食を取っていると、そこへボロボロの格好の女性が現れた。


 よろめきながらフェリスに近づき、真ん前でばたんと倒れる。


「ふえええっ!? 大丈夫ですかあっ!?」


 フェリスはびっくりして女性を助け起こそうとするが、なにぶん腕力がないのでどうしようもない。うんうんうなっていると、女性は自分で起き上がった。


 真っ黒に汚れた女性の顔を、アリシアが眺める。


「もしかして……ミランダ隊長?」


「ええ!? 完全に別人ですわよ!? やつれきってますし、服は擦り切れてますし……一応、魔術師団の戦闘服は着ているみたいですけど……」


 ジャネットも女性の顔を凝視する。


 女性は弱々しい声を漏らした。


「……ミランダです」


「本当にミランダ隊長ですの!?」


「本当に本当です……アリシア様あああああああっ!!」


「きゃっ!?」


 ミランダ隊長は泣きながらアリシアに抱きついた。


 いきなり大の大人に飛びつかれ、アリシアは危うくバランスを崩して倒れそうになる。フェリスが一生懸命、アリシアの背中を押して支える。


「ふぬぬぬぬ……が、がんばってくださぁい……」


「ありがとう、フェリス。もう大丈夫よ」


 アリシアは自分で立ち直った。


「それで、ミランダ隊長はどうしたの? なにかあったのかしら?」


 ミランダ隊長は手の甲で涙をぬぐいながら告げる。


「閣下が……ロバート閣下が……行方不明になってしまいました!!」


「……え!?」


 さすがのアリシアも目を見開いた。


「ロバートさんが!?」


「わたくしのお父様の代わりに、魔術師団長代理として紛争の解決に行っていたはずですわよね!?」


「ど、どういうことかしら?」


 慌てて問いただすアリシアに、ミランダ隊長は拳を握り締める。


「ロバート閣下に率いられて、私たち魔術師団は辺境地帯に駐留していたんです。なんとか紛争の当事者同士を和解させられないかと思って。放っておくと、また大規模な戦争に拡大するかもしれませんから」


「わたくしの小さな頃にあったような戦争ですわね……」


「はい。ですが、仲裁はなかなか進まず……それどころか我が部隊が襲撃を受けるようになって……。ある朝、ロバート閣下が忽然と姿を消していて……」


「……っ。お父様、連れ去られたのかしら」


「部屋に争った形跡がありましたから、恐らくは。でも、おかしいんです。誰も争った物音を聞いていないんです。それに、ロバート閣下ほどの実力者が、そんな簡単に負けるなんて思えなくて……」


「そうよ……お父様は強いの。強いのだから……」


「アリシア、さん……?」


 フェリスはアリシアの握り締めた手が震えているのに気付いた。頼もしくて大好きなアリシアが、ここまで狼狽しているのを見るのは初めてだった。


「捜索はしているんですの?」


「現地にいる魔術師団の総力を挙げて。しかし、現地人から繰り返しゲリラ戦を仕掛けられ、どんどん戦力が消耗していってます。行方不明になる兵士も増え続けるばかりで……」


「き、騎士団に応援をお願いしたりできないんですか?」


 フェリスが尋ねると、ミランダ隊長は首を振った。


「要請は出していますが、すぐには厳しいでしょう。魔術師団と騎士団は昔から犬猿の仲ですから」


「そんな……」


「騎士団とは、いろいろありましたものね……」


 ジャネットは眉を寄せた。


 ミランダ隊長がフェリスに向き直り、深々と頭を下げる。


「……フェリス。小さな子に、こんなことをお願いするのは駄目だと分かっています。国を守る魔術師団が、守るべき市民に頼るなんて、情けないと思っています。でも……他に方法が見つからないんです。どうか、私と一緒に来てください」


「ダメよ。お父様でも無事で済まないような危険なところに、フェリスを行かせるわけにはいかないわ」


「アリシア様もお分かりでしょう! フェリスの力なら、王都を救い出したフェリスの力なら、きっとロバート閣下も……!」


「フェリスは、十歳なのよ」


「ですが!!」


「えっと……あのっ……」


 フェリスは言い争うアリシアとミランダ隊長の顔を見比べておろおろする。二人に喧嘩なんて、してほしくなかった。こんな苦しそうなアリシアを見たくなかった。


「ダメ、よ……私がフェリスを守らないと……いけないんだから……」


「アリシア……」


 唇を噛み締めるアリシアを、ジャネットが痛ましそうに見る。


「あ、あのっ!!」


 フェリスは意を決して声を上げた。


 皆の視線が集中する。


「わたし、行きます! ミランダさんと一緒に! ロバートさんを探します!」


「フェリス!? どうして分かってくれないの!?」


「分かりません! アリシアさんの言いつけ、破りたくないですけど! でも、今回は破ります!」


「どうして!」


 悲鳴のような声を、アリシアが漏らす。


 そんなアリシアを、普段は優しくて物静かなアリシアを、フェリスはじっと見つめる。


「アリシアさんのこと……大好きですから。アリシアさんのお父さん、助けたいですから。わたしのわがまま、許してください!」


「…………っ!」


 アリシアが、フェリスの手を握り締めた。


 まるで、そうしていないと立っていられないかのように。


「ごめん、なさい……フェリス……。本当は……私……」


「はい。大丈夫です。わたし、全力で頑張りますから!!」


 フェリスはアリシアの手を握り返し、元気よく言い放った。

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こちらもどうぞよろしくお願いいたします!

http://ga.sbcr.jp/bunko_blog/ga_pengi/20180207b/

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