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十歳の最強魔導師  作者: 天乃聖樹


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恐怖の魔導具

 円形の広場が点在する薄闇の空間を、フェリスたちはさまよった。


 つるつるした階段をひたすら上ったり降りたりしていると、この異空間に迷い込んでからどのくらい経ったのか、時間の感覚さえも曖昧になってくる。それはまるで周囲に漂う影のもやのようにあやふやで、フェリスはぼうっとしてきてしまう。


「……ありました。記憶のスフィアですよ」


「ふあっ!?」


 ロゼッタ姫から呼びかけられ、フェリスは慌てて我に返った。


 見れば、広場の中央にクリスタルの台座が据えられており、その上にスフィアが浮かんでゆっくりと回転している。


「じゃ、じゃあ……中を覗いてみます」


 フェリスが恐る恐るスフィアに触れると、さっきと同じ衝撃波が襲いかかってきた。


----------------------------------------------------------------------


 それは、小さな町の光景だった。


 建ち並ぶ家々は時代がかったデザインで、行き交う人々の服装も古めかしい。お祭りでも開催されているのか、人通りは多く、街路は華やかに飾り付けられていた。


 フェリスの視線の先では、黒雨の魔女と先程の少女が仲睦まじく話していた。


「ほら、見て見て。屋台にすっごく可愛いペンダントがあったよ! 買って来ちゃった」


 息せき切って二つのペンダントを差し出す少女。


「高そうなペンダントじゃの……。いくらお祭りとはいえ、浮かれすぎではないか? もう少し自制せねば」


 黒雨の魔女は渋い顔で頭を振る。


「でも、ほら。石をお日様にかざすと、七色の光まで出てくるし。綺麗じゃない?」


「綺麗は綺麗じゃが、そう簡単に散在してしまってよいのか? 今日のために頑張って貯めた駄賃じゃろうに」


「いいんだよ! はいっ!」


 少女はペンダントの片方を魔女に手渡した。


「え…………?」


「二人でお揃いのお守りが欲しかったの。だから、いくらかかってもいいの。今日のお祭りに来たのだって、お揃いのなにかを買いたかったからだし」


「お揃い……? わらわと……?」


「うん! これはね、二人がずっと一緒にいるって証なの。もし約束を破っちゃったら、大変なことになるんだから!」


「うむ……そうじゃな……。わらわたちはずっと、ずっと一緒にいる。この時間を、誰にも壊させたりはせぬ」


 少女と黒雨の魔女はお互いの首にペンダントをかけ、嬉しそうに微笑み合った。


----------------------------------------------------------------------


「はっ……はっ……はぁっ……」


 フェリスは荒い呼吸と共に、記憶の海から現実へと戻ってくる。


「どうでしたの!?」


「なにか分かりましたか?」


 ジャネットとロゼッタ姫が、心配そうにフェリスの顔を覗き込んでくる。背後からアリシアがフェリスを抱きかかえてくれている。


「え、えと、その……」


 フェリスは荷袋から黒雨の魔女の魔導具を取り出して見つめた。やっぱり、さっきのペンダントとまったく同じだ。こちらの方が古びて無数の傷や奇妙な染みができてはいるものの、間違いない。


「この魔導具が……昔のひどい戦争の元になったんですよね?」


 フェリスが見上げると、アリシアはうなずく。


「ええ。凄まじい魔力がこもった魔導具を奪い合って、黒雨の魔女と世界中の国が戦ったといわれているわね」


「どうしてペンダントなのかは不思議ですが……」


 ロゼッタ姫は首を傾げる。


 フェリスはお揃いのペンダントを握り締めた。


「もしかして……」


 なんとなく、すべての元凶が分かった気がする。


 なぜそこまで黒雨の魔女がこの魔導具にこだわっているのかも。世界を恐怖に陥れ、数多くの命を滅ぼし、王都まで呑み込んだ理由が。


 だが、そうだとしたら……あまりにも哀しい。


 フェリスは魔導具のペンダントを大事にしまい込むと、再び薄闇の空間を歩き始めた。


 やがて、遠くから人の争う声が聞こえてきた。


「なにかしら……?」


「向こうに誰かいますわ!」


 少女たちが階段を駆け上ると、見慣れた服装の兵士たちが魔物と戦っているところに出くわした。王都の魔術師団だ。


 魔術師団長のグスタフが大きな魔術で魔物たちを吹き飛ばし、他の兵士たちも援護で炎弾を放っている。


「……お父様!? 無事でしたの!?」


 目を見張るジャネット。


「ジャネット!? まーたこんなところまで来おったのか! 仕方のない娘だ……」


 グスタフは戦いながらも肩をすくめる。


「お手伝いしますーっ!!」


 フェリスは両手を挙げて魔物たちの方へと突っ走った。

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