魔女の記憶
書籍版の三巻は、本日発売です! フェリスたちが海に行く回となっています。
かなり改稿しておりますので、どうぞよろしくお願いいたします!
https://herobunko.com/books/hero45/7552/
「黒雨の魔女さん!?」
フェリスは驚きの声を上げるが、黒雨の魔女はなんの反応もしなかった。
ただ、古風な服に身を包んだ少女に、必死に語りかけている。
「ライラ! ライラ! しっかりするのじゃ! 消えてはならぬ!」
少女は視線だけで弱々しく黒雨の魔女を見上げる。
「ごめんね……私が、守ってあげなきゃいけないのに……。もう、できないみたいだね……」
「そなたに守ってもらう必要などないわ! わらわが守ってやるのじゃ! 今までも、これからも、ずっとずっと永遠に!」
「そう、したかったんだけど……」
ささやいたきり、少女の言葉は途切れる。
細い手が力なく垂れ、微かに動いていた胸が微動だにしなくなる。
「ああ……ああ……あああああ…………」
黒雨の魔女の喉から、獣のようなうめきが漏れた。
恐るべき魔力の波動に漆黒の髪がざわざわと揺れ、全身から闇色の雫が溢れ出す。
その唇がつむぐのは、鮮烈なまでに痛々しい呪詛の言葉。
「許してなるものか……絶対に……末子末裔に至るまで……根絶やしにしてくれる……」
闇が爆発し、大きな衝撃と共にフェリスは吹き飛ばされた。
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「……えっ? あれっ?」
気がつけば、フェリスは小さな民家のそばではなく、元通りの奇妙な異空間に立っていた。
近くには碧いスフィアが浮いており、ジャネット、ロゼッタ姫などの友人たちが心配そうにフェリスを見ている。後ろからフェリスを抱きすくめて倒れないようにしてくれているのはアリシアだ。
フェリスはきょとんとした。
「どしたんですか?」
「どうしたはこっちの台詞ですわ! 急にぼーっとした目になったかと思ったら、話しかけても全然返事がないですし! 心配しましたのよ!?」
ジャネットは涙目でまくし立てた。
「え……? わたし、ぼーっとしてないですけど……ずっと黒雨の魔女さんのこと見てましたけど……」
「黒雨の魔女? どこにいるのかしら?」
首を傾げるアリシア。
「えと、今はいないです。あっ、それとっ、アリシアさんたちはどこにいたんですか!? 急にいなくなっちゃいましたけど!」
「わたくしはいなくなってなどいませんわ」
「え、でも、でも」
「ううん……どうも話が噛み合わないわね……」
フェリス、ジャネット、アリシアの三人は頭を抱える。
「……とりあえず、フェリスがなにを見たのか教えてくださいますか?」
ロゼッタ姫が尋ねた。
フェリスはスフィアを触ってから起きたことを、細かく説明していく。興奮している上、舌足らずなものだからあまり上手くいかないが、友人たちは真剣に耳を傾けてくれる。
すべてを聞いたロゼッタ姫は、丸めた手を口元に添えて思案する。
「ひょっとしたら……フェリスは黒雨の魔女の記憶を覗いていたのかもしれませんね」
「きおく……ですか?」
「ええ。我が王家に伝わる古文書に、『黒雨の魔女はとある出来事をきっかけに暴走した』と記されているのです。その出来事については文献が失われていて分からなかったのですが……もしかしたら……」
アリシアが眉を寄せる。
「誰かが亡くなったのが、きっかけだったかもしれない……と?」
ロゼッタ姫はうなずく。
「なぜ黒雨の魔女の記憶が見えたのかは知りませんが……」
「きっと、黒雨の魔女の魔力がたくさん込められているからですわ! その中に混じった記憶のかけらを、フェリスの魔導で透視しちゃったんですわ!」
「それもあり得ますね。どちらにしても、ここを抜け出す手がかりになるはずです。フェリス、もう一度スフィアを覗いてもらってもよろしいですか?」
「は、はい……」
フェリスはスフィアに触れるが、何も起きない。ぺたぺたと触りまくるが、爆発も景色の変化も生じない。
「す、すみません……見えないですけど……」
フェリスは申し訳なさで泣きそうになりながら友人たちを見上げた。
「もー、泣かなくてもいいですわ!」
「このスフィアから覗ける記憶は一つだけなのかもしれないわね。魔力の流れはあちこちから感じるし、他のスフィアも探してみましょう」
「はい! 頑張りますっ!」
フェリスは勇んでげんこつを握り締めた。
イラストレーターのフカヒレ先生が、フェリスを動かしてくださいました!
書籍版三巻の衣装です!
https://twitter.com/fuka_hire/status/935267626221051904




