消えた王都
魔法学校の校長室に、ロゼッタ姫とロッテ先生が呼び出されて立っている。
その前で難しい顔をしているのは、校長ミルディン・ウィルトその人だ。
「王都が行方不明になってしまったとは、どういうことなのですか?」
ロゼッタ姫が尋ねると、校長はため息をついた。
「そのままの意味じゃよ。王都プロスペロが、この世界から消え失せてしもうた。建物も、住民も、城壁も、すべて跡形もなく、な」
「では……宮殿と父君たちも……?」
「もちろんじゃ。王都があった平野は、今ではただの更地になってしもうとる。誰がかようなことをしたかは……まぁ想像はつくのじゃが方法は分からぬな」
「うちもなくなってしまったということですの!?」
「んっ?」
扉の方から泡を食った声が聞こえ、校長とロッテ先生とロゼッタ姫は扉を見やった。
その向こうでは、聞き耳を立てていたジャネットとフェリスとアリシアが縮こまっている。
アリシアがささやく。
「ジャネット、声を出したらダメよ」
「だ、だって……」
「き、気付かれちゃったでしょうか……」
息を殺すフェリスたち三人。
校長室の中でロッテ先生が肩をすくめる。
「あの子たち……ちょっと教室に帰してきますね」
「いや……これだけの大規模な異常事態じゃ。どのみち話はすぐに広がる。ならばいっそ、話の根源を早めに解決した方がよい」
「え……どうするんですか?」
「こうじゃ!」
校長が杖を振るうと、入り口の扉がばばんと開き、フェリスたち三人の体が浮き上がる。
「きゃっ!?」
「ふあああああっ!?」
「なんですのー!?」
悲鳴と共に、フェリスたちは校長室に吸い込まれた。
再び扉が閉じ、三人は校長とロッテ先生とロゼッタ姫の視線を浴びて小さくなる。
「フェリスちゃ~ん? いったいそこでなにをしてたのかな~?」
「ご、ごめんなさあいっ! もうしませんからーっ!」
フェリスは慌ててぺこぺこ頭を下げた。
校長が笑った。
「そう謝らずともよい。パニックを防ぐためなるべく情報は広めたくないところじゃが、お主らは部外者というわけでもないからの」
「ふえ?」
「先の王都での事件、公には魔術師団長グスタフの功績となっておるが、本当はフェリスが解決したのじゃろ?」
「そ、それは……」
目をそらすジャネット。
「ワシには誤魔化さずとも構わぬよ。グスタフ坊やのことは昔からようく知っておる。確かに利に聡く策略に長けた少年じゃったが、魔術の能力もそうでもない。あれほどの大事件を一日で解決はできんじゃろ」
「ミルディン翁のおっしゃる通りです。黒雨の魔女によって闇に満たされた王都から、わたくしを救い出してくれたのは、フェリスです」
ロゼッタ姫も認める。
「と、いうわけでじゃ。ワシは少し考えたのじゃが……フェリス、ロゼッタ姫と共に王都を捜しに行く気はないかの?」
上司の突然の提案に、ロッテ先生が驚く。
「校長先生!? なに考えてるんですか!? そんな危ないことっ……」
「わ、わたし、行きたいです! ロゼッタさんとかジャネットさんのおうち、ちゃんと取り戻したいです!」
「ダメだよ、フェリスちゃん! 王都が消えるくらいの大事件なんだよ!? なにが起きるか分かんないんだよ!?」
「でもでもっ! 誰かが困ってるのに、なにもしないなんて……絶対できませんっ!」
フェリスは必死に訴える。
「大丈夫じゃよ、ロッテ先生。今回の件は、ワシが責任を持って引率する。それなら問題ないじゃろ?」
「ま、まあ……魔術史始まって以来の鬼才と謳われたミルディン・ウォルトが監督されるなら、一番安心ではありますけど……」
ロッテ先生は不承不承うなずく。
「力を持つ者には、それなりの訓練が必要じゃ。そろそろフェリスにも、大きな仕事を任せてみた方がよい頃合いじゃろう。本来事件の対処にあたるべき魔術師団も、王都もろとも消えてしもうたからの」
「あの……校長先生。私も……」
「わたくしもフェリスについていきますわっ!」
アリシアとジャネットが申し出る。
校長は相好を崩した。
「うむ。フェリスのかたわらを普段から固めるお主らも、サポートの方法を学んでおいた方がよい。護衛の剣士やロッテ先生も含めて、な」
「よかった……」
「全力でフェリスのことを守りますわ!」
アリシアとジャネットは胸を撫で下ろす。
校長はフェリスを見やる。
「もし事件を解決しても、成し遂げたフェリスの名前は隠さねばならぬ。多くの者たちに、お主の力に気付かれるわけにはいかんからの。それでも……構わぬか」
「…………はい!」
フェリスは表情を引き締め、大きくうなずいた。
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海沿いの別荘でのバカンス回です。水着や衣装がものすごく可愛くて当惑しています。
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