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十歳の最強魔導師  作者: 天乃聖樹


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魔術師団

「ここが栄えある魔術師団の本部ですわ!」


 大通りで、ジャネットが誇らしげに胸を張って紹介する。


 それは、堂々たる構えの建物だった。古びた石材に、時代がかった装飾、そしていかめしい紋章。鋭い尖塔には幾重にも術式が張り巡らされ、何者も寄せ付けない威圧感を漂わせている。


 明らかに王都の他の建築物とは格式が異なり、経てきた時間も違う。そんなことを直観させる重厚なたたずまいだ。


「ま、まじゅつしだん……。すごい魔術師の人がたくさんいるところですよね……怖いです……」


 フェリスはアリシアの陰に隠れるようにして、恐る恐る本部の建物を見上げている。


 ジャネットは笑ってしまった。


「もう、どうして怖がるんですの。フェリスの方がよっぽどすごいですわ」


「そ、そんなわけ、ないですけど……」


 大人は怖い。たった十歳の自分が知らない大人ばかりのところに行ったら、なにをされるか分からない……なんて、フェリスは怯えていた。


「それはともかく……、面会の約束はしているの? 魔術師団の警備はだいぶ厳しかったはずだけれど」


 アリシアが尋ねると、ジャネットはふふんと鼻を鳴らした。


「約束なんて要りませんわ! わたくしは魔術師団長の娘……魔術師団本部はわたくしの庭みたいなものなんですもの――――――!!」


「すごいですジャネットさん!」


 目をきらきらさせるフェリス。


「ふふふ……どーんとわたくしを頼っていいのですわ!」


 と言って、ジャネットが意気揚々と二人を引き連れて本部に乗り込むと。


 警備兵や魔術師たちが、一斉にざわついた。


「アリシア様!」「アリシアお嬢様ではありませんか!」「いつの間にかお綺麗になられて……もはやレディですね!」「お帰りなさい、アリシア様!」「どうしてここへ!?」「ひょっとしてロバート様が魔術師団長の座にお戻りになられたのですか!?」「今日は祝宴ですなあ!!」


 などと色めき立ち、アリシアを取り囲む。


「ふぁ……アリシアさん、大人気です……」


 口をぽかんと開けるフェリス。


「えぐっ……ふぐっ……ま、魔術師団長の娘は、わ、わたくしですのに……」


 半泣きのジャネット。


 アリシアは穏やかに微笑む。


「今日はジャネットの付き添いで来ただけよ。特に変わったことはないわ」


「え……ラインツリッヒ家の付き添いで……?」「い、いったい両家になにが……?」「アリシア様、是非事情をゆっくりとお聞かせください」「ええ、ええ、お茶の席をご用意しますから!」「最近評判のマドレーヌがあるんですよ!」


 魔術師たちはわいわいと騒いだ。


 あまりにも放置されすぎて痺れを切らしたジャネットが割って入る。


「事情なんて気にしなくていいですわ! ちょっと調査部隊のミランダ隊長に用があるんですけど、どこにいますかしら?」


「ミランダ隊長……?」「あれに……お会いになるんですか……」「やめておいた方が……」「ちょっと……結構……非常に……個性的なヤツですよ?」「今日も資料庫にこもってなにかしているみたいですが……」「君子危うきに近寄らずってことわざが……」


 微妙な反応の魔術師たちである。


 同僚なのにひどい扱いだが、ミランダ隊長の暴走っぷりからすれば仕方ない。仕事熱心すぎるせいで、以前はフェリスもだいぶ大変な思いをしたのだ。


「資料庫ですわね。こっちですわ! わたくしが案内してさしあげますわ」


 ジャネットは失った面目を取り返そうと、張り切って進んでいった。


 アリシアも一応、魔術師団本部の地理には通じているのだが、あんまりジャネットを泣かせたくないので沈黙を保っておく。


 一方、フェリスは古めかしい回廊をきょろきょろ見回しながら歩いた。今にも動き出しそうな石像が置いてあったり(そして実際に目玉が動いた)、壁に貼られた絵画の中でひたすら魔法陣が回転していたり、床の一部が液状に溶けていたりと、珍しいモノばかりで口は大きく開きっぱなしである。


 あの可愛く開いた口にアメ玉などを放り込みたい!!


 と思うジャネットだが、あいにく今はお菓子の持ち合わせがない。今後は対フェリス用に菓子の用意が不可欠だと判断する。


 魔術師たちから少なからずの注目を浴びつつ、三人は資料庫の前へとたどり着いた。


 外敵排除用の魔法陣が仕掛けられた扉の向こうからは、なにやら聞き覚えのある声が聞こえてくる。


「この興奮! 知識の深層に潜る快楽! ああ、書物とはなんと素晴らしいのだ! もっと知りたい! もっと極めたい! よし、この禁書も封を解いてしまえ……ふふ、ふふふふふふふ……!!!!!!」


 不穏だった。


 死ぬほど不穏だった。


「帰った方がいいのかしら……」


「ここまで来てそれはないですわ……」


「め、めいわくなのでは……?」


 三人が三人とも、扉の前で逡巡する。


「ミランダ隊長……? 少しお邪魔するわね……?」


 アリシアは声をかけながら資料庫の中に足を踏み入れた。


「……アリシア様!? ジャネット様、そしてフェリスまで! どうしたのですか!?」


 ミランダ隊長が本の山から首を突き出して驚く。


 文字通り、本の山。無秩序に盛られた書物の数々の中に、隊長の体が埋もれてしまっている。しかも彼女の持っている古文書からは、ぶすぶすと黒い瘴気が漏れている真っ最中だった。


 ミランダ隊長は慌てて古文書を閉じ、背中に隠す。


「い、今のは違いますよ!? ええ、違います! 決して禁書の封印を解こうとしていたわけでは! 知的好奇心に負けそうになっていたわけでは!!」


「ごまかしても無駄ですわっ! しーっかり聞こえていましたわ!」


 ジャネットは肩を怒らせた。


 言い逃れできぬと悟ったミランダ隊長は、ついっと目をそらす。


「…………まだ解いてはいなかったので。解こうとしていただけだったので。未遂なら大丈夫です」


「そうなんですね! 勉強になります!」


 元気にうなずくフェリス。


「余計な勉強をしちゃダメですわ! あれはダメな大人の見本ですわ!」


 ジャネットは急いで教えた。


「ミランダさんは……ダメな大人の見本なんですか……?」


 つぶらな瞳で見上げるフェリス。


 そこに邪気は一切ない。


 飽くまで純粋に、ミランダ隊長がダメな大人かどうかを知りたいと願い、素直に問うている。


「そ、そんな綺麗な目で……すごくつらくなるから許してください……」


 ミランダ隊長は胸を押さえた。


 本の山から抜け出し、乱れた服を調えると、咳払いする。


「それで、なんのご用ですか? 魔術師団長閣下なら、執務室にいらっしゃいますが」


「お父様ではなく、あなたに会いに来たんですの」


「私に……?」


「ええ、ミランダ隊長に少しだけ話があるのよ」


 アリシアはさりげないふうに告げた。


 まさか黒雨の魔女の魔導具がどこの宝物庫に隠されているかなんて、ストレートに聞くわけにはいかない。王室の宝物庫の情報は国家機密だし、黒雨の魔女が関わっているとなればさらに機密度が上がる。


 どうやって上手く聞き出したものかと、アリシアが頭をひねっていると。


「黒雨の魔女さんを捕まえたいので、黒雨の魔女さんの魔導具がしまってある宝物庫の場所を教えてほしいんです! おねがいしますっ!」


「直球ですの!?」


 ジャネットは愕然とした。


 さすがにミランダ隊長も眉をひそめる。


「ええ……と、宝物庫の情報は……教えられませんが……」


「おねがいしますっ!」


 フェリスがぴょこんとお辞儀する。


「いえ、お願いされても、ちょっと……ですね。下手をすれば国家反逆罪に……」


「でもっ、知りたいんです! 黒雨の魔女さんに、これ以上悪いことをしてほしくないんです! だから、魔女さんの魔導具がある宝物庫で待ち伏せをしたいんです!」


「それは……理屈として分かりますが、そもそも魔法学校の生徒が動く問題ではありませんし、こちらにもいろいろと事情が……」


「だ、だめですか……? わたし、わたし……、ロッテ先生のときみたいなこと、もう起きてほしくなくてっ……」


 うるうると瞳を潤ませながら、フェリスがミランダ隊長にすがりつく。


 その声は弱々しく震え、今にも泣き出しそうな気配があふれていた。


「くっ……だ、だめですよ……そんな……私にも立場が……」


 ミランダ隊長は必死に抵抗するが、フェリスのような女の子に全力でお願いされたら、むげに断るのはつらすぎる。


「ミランダさぁん……」


 フェリスの愛くるしい瞳に、じわりと涙が広がった。


 その小っちゃなげんこつは、ぎゅうっとミランダ隊長の上着を握っている。


「……………………ちょ、ちょっとだけ、ですよ?」


 ミランダ隊長は敗北した。

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