表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
十歳の最強魔導師  作者: 天乃聖樹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/196

はじめての王都

「ふああああああああ……すっっっっっっごく、大っきいですーーーーーーーー!」


 王都に到着したフェリスは、馬車の中で目をまん丸にした。


 堂々たる石造りの建物が連なる街並み。


 まるで街道のように広々とした大通り。


 忙しなく行き交う膨大な群衆、慌ただしく駆け抜ける蹄の音。


 王家のお膝元である古都の偉容に、フェリスは圧倒されてしまっていた。


「荷物は先にうちに屋敷に送っておいて、わたくしたちはちょっと散歩して参りましょう。王都の様子をフェリスにも見せておきたいですし」


「そうね。私も王都に来るのは久しぶりだから、自分で歩いてみたいわ」


 ジャネットとアリシアは最低限の手荷物だけを持って馬車から降りる。


「さあ、フェリス。行きますわよ」


 とジャネットが振り返ると。


 走り出す馬車の座席にフェリスがちょこんと座っているのが見えた。


 馬車はあっという間にジャネットとアリシアから離れていこうとする。


「ちょ、ちょっと、フェリス!? ストップ、ストップですわーっ!」


 ジャネットは慌てて馬車を止めた。


 フェリスが馬車の扉に隠れるようにして外をびくびく眺めている。


「ど、どうしたんですか……?」


「こっちの台詞ですわ! どうして一緒に降りないんですの?」


「だ、だって……、王族の人に処刑されちゃうかもですし……」


「あら、まだそのことを心配しているのね」


 アリシアは笑みを漏らした。


「わ、わたし、マナーとかよく分かんないですし、王族の人に無礼なことしちゃうよりは、ジャネットさんのおうちにこもっていた方がいいかなぁって……」


「大丈夫ですわ、そんなに怖がらなくても。いざとなったらわたくしの後ろに隠れていればいいですわ」


「そ、そうでしょうか……」


「ほら、おいで。怖くないから」


 ジャネットとアリシアが警戒心の強い小動物をなだめるようにして呼び寄せると、フェリスはびくつきながら馬車から降りてきた。


「ず、ずっと、後ろにいますから……」


 ジャネットの洋服の裾を掴んで背後に隠れるフェリス。もはや王族が魔物扱いである。


 フェリスの小さな手の感触と、背中に感じる弱々しい気配に、


「ま、ままままま任せてくださいまし! ラインツリッヒ家の社交能力は完璧ですわ!」


 ジャネットは全力で発奮する。


「じゃあ、私はフェリスの後ろに隠れておくわね」


「それになんの意味がありますの!?」


 三人縦に並ぶようにして、少女たちは王都の大通りを進んでいく。


 最初は緊張しきっていたフェリスだが、前後を頼もしい仲間に守られているお陰か、徐々に周囲の雰囲気を味わう余裕が生まれてくる。


 鍛冶屋や食料品店などが整然と並ぶ道を歩いていると、なにやら華やかな装飾の露店に人だかりができているのが見えた。


 露店の台には風魔術と炎魔術の魔法陣が描かれていて、超小型の竜巻が舞っている。そこに売り子が棒を差し出すと、たちまち棒の周りにふわふわした白いものが巻き付いていく。


 客たちはお金を払って棒と白いふわふわを受け取り、楽しそうに立ち去る。


「く、雲です! アリシアさん、ジャネットさん! 雲ですよ! あのお店、雲が売ってます!」


 フェリスはびっくりして二人の袖を引っ張った。


 ジャネットが笑った。


「あれは雲じゃありませんわ。『フロストキャンディー』と言って、最近王都で流行っているキャンディーの一種ですの」


「キャンディーって固いお菓子じゃないんですか?」


「そうですけれど、あれは違いますの」


「なるほど……炎魔術で砂糖を溶かして、風魔術で薄く伸ばすことで綿の繊維みたいにしているのね……興味深い仕組みだわ」


「え、ええ、そういう仕組みなんですのよ」


 などと言いつつ、今の今までフロストキャンディーのメカニズムには気付かなかったジャネットである。相変わらずのアリシアの観察眼に悔しい思いをする。


「ふわふわのキャンディー……王都って、珍しいものがあるんですね……」


 フェリスは指をくわえて露店を見上げる。


「食べてみたいの?」


 アリシアが背を屈めフェリスの顔を覗き込んだ。


「えっ、いえっ、食べてみたいとかじゃなくてっ、珍しいなあって……!」


 フェリスは急いで手を振る。


 ミランダ隊長からもらった報酬はみんなへのプレゼントに使ってしまったから、今のフェリスは文無し。自分が食べたいと言ってアリシアとジャネットに気を使わせるのは嫌だった。


 だが、ジャネットは。


「フロストキャンディー、十段重ねでお願いしますわ!!!!」


 可愛らしい赤の財布を丸ごと売り子に突き出して要求した。フェリスが欲しがっているのなら、魂をかけて全世界のキャンディーを買い占める覚悟だった。


 売り子は特大の棒を使い、見事なフロストキャンディーの山をこしらえた。


 それを手渡されたフェリスは、予想以上の重さに思わずよろける。アリシアとジャネットがとっさに棒を支える。


「い、いただきま……ふあああああ!? 甘くてふわふわですーーーーっ!」


 フェリスは口いっぱいにフロストキャンディーを頬張って歓声を上げた。


「気に入ってもらえましたかしら?」


「はい! はいっ!! ホントに雲を食べてるみたいです! もこもこの羊さんです!」


 夢中で訴えるフェリス。


「ほっぺたにキャンディーがついているわよ」


 アリシアが笑ってフェリスの頬から白いオヒゲを指で取る。


「やっぱりあなたは許しませんわ……」


 羨望と怨嗟の視線を向けてくるジャネットの口に、


「はい、どうぞ」


「ひゃっ!?」


 アリシアはそのキャンディーの切れ端を人差し指で突っ込んだ。


「あ、甘いですわ……」


 思わぬ幸運に、ジャネットは天にも昇る気持ちになる。


 フェリスのほっぺたについていたキャンディーなのである。それは、金貨を何百枚積んでも代えようのない最高級のお菓子。ライバルへの羨望と怨嗟は一瞬でフロストキャンディーのように溶け去ってしまう。


 フェリスとアリシアとジャネットの三人は、巨大な一つのフロストキャンディーを協力してはぐはぐかじりながら、王都をお散歩した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング

コミカライズがスタートしました!
試し読み
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ