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十歳の最強魔導師  作者: 天乃聖樹


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ク魔王

ヒーロー文庫様から3月25日に書籍化して頂けることになりました! 大幅に改稿しておりますので、書籍版もどうぞよろしくお願いいたします。予約も始まっております! http://herobunko.com/books/hero45/6382/

「ななななななんですの!? あの大きさは!? あれがこの絵本のクマですの!?」


「ふわわわわわ……絵本ではもうちょっと小っちゃかったはずなんですけど……」


「もうちょっとどころじゃないわ!」


 慌てふためくジャネット、フェリス、アリシアの三人。


 屋根裏部屋で絵本を見つけたときは、登場キャラクターのクマは女の子に抱っこされるぐらいのサイズのヌイグルミだったから、まさかここまで巨大なクマが出てくるとは予想していなかったのだ。


「んー? なんだー? お前たち。新入りなのかー? ボクの召使いになりに来たのかー?」


 クマは大きな顎からダラダラとよだれを落としながら、ぼんやりとフェリスたちを見下ろした。


「め、召使い……?」


 震える声で聞き返すフェリス。


「そうダヨー。ボクのために一生懸命面白いこと考えて、ボクを笑わせる召使いだ! ボクは『幸せなクマさん』だから、ずーっと笑ってなくちゃいけないんだ!!」


「そういえば……この絵本はそういうタイトルだったわね」


 アリシアは口元に指を添えて思い出す。


「つーまーり! お前たちはボクを笑わせなきゃいけないんだ! できなかったら処刑なんだ! それが召使いなんだ!!!!」


「そんなの召使いじゃありませんわよ! 横暴すぎますわ!」


「うるさいうるさいうるさーい! ボクは偉いんだぞ! クマさんなんだぞ!!!! 言うこと聞かないやつはこうしてやるうーっ!!」


 クマはフェリスたちに巨大な前肢を踏み下ろしてきた。


「きゃああああああああああっ!?」


 少女三人の悲鳴が響き渡る。


 その前肢がフェリスたちを踏みつぶそうとする寸前で、ぴたり、と止まった。


「あれえー? お前……もしかして……」


 四つん這いになるようにして、アリシアの顔を覗き込む。


 途端、顎が裂けんばかりにしてクマの口角がつり上がった。


「わー! やっぱりだ! やっぱり! レティシアだあああああっ! やっとレティシアに会えたあああああああっ! もー、ぎゅーってしちゃう! 内臓どかーんってなるぐらい! ひゃっっほーーーーーー!!!」


 あまりにも物騒なことを叫びながら、アリシアを巨大な前肢二本で挟み込もうとしてくる。


「だ、だめですーっ! アリシアさん潰れちゃいますーっ!」


 フェリスがアリシアの前で両腕を広げて立ち塞がった。


「ジャマだっ!! ボクとレティシアのジャマをするやつは、潰れちゃえ!!」


 クマは激怒してフェリスに前肢を叩きつけた。


 その刹那、フェリスの周囲にドーム状の壁が現れ、クマの前肢と激突する。


「これは……魔法結界……?」


 フェリスに守られたアリシアは、目を瞬いた。


 クマは鋭く尖った牙をぎりぎりと噛み締める。


「嘘だ……この世界で魔法が使えるやつなんて、いるわけがないんだ……ここはボクの世界だぞぅ……ボクの許しがなけりゃ、だーれも魔法は使えないんだ!! どんな強い魔術師にも無理なんだ!!」


「ふふんっ、残念でしたわね! あいにく、フェリスはそんじょそこらの魔術師とは違いますのよ? とーーーーーーーっても強い子なんですから!」


 大きく胸を張るジャネット。


「どうしてジャネットが得意気なのかしら?」


「べっ、別にいいでしょ!! 子供を見守る親のような気持ちですわ!」


 アリシアに突っ込まれ、ジャネットは顔を真っ赤にする。


「わたし……ジャネットさんの子供なんですか? ジャネットさんは、わたしのおかあさんなんですか? おかあ……さん?」


 つぶらな瞳を震わせてフェリスから見つめられ、ジャネットは胸がきゅんきゅんしてしまう。


「ああもうっ、なんて可愛いんですの! この子は! もう辛抱たまりませんわあああっ!」


 思わず、ジャネットはフェリスを力の限り抱き締める。


「ふぁっ!? つぶれちゃいますよーっ!」


 フェリスは恥ずかしいやら嬉しいやらで、情けない悲鳴を響かせた。


「お前ら!! 無視すんな!!」


 勝手に盛り上がっている少女たちに置いてけぼりにされ、クマが苦情を申し上げた。


「あっ、ごめんなさいっ! 無視してるわけじゃないんです!」


「律儀に謝らなくてもいいのよ、フェリス」


 アリシアがフェリスの肩をぽんと叩く。


 謝罪の効果はあるのかないのか、クマは目を真っ赤にぎらつかせて憤慨している。


「無視は駄目なんだぞ! 無視は駄目なんだぞ! 無視されると寂しいから! お前はジャマだ! ボクとレティシアのジャマをするやつは、消えちゃえええええええ!」


「ひゃああああああああっ!?」


 フェリスとアリシアの足下に、魔法陣が出現した。


 二人の姿が眩い光に包まれ、その輪郭が薄れていく。


 直後、二人はメルヘンチックな場所から消え去り、薄暗い場所に転移してしまっていた。


「ここは……」


 目を丸くして辺りを見回すアリシア。


「やねうら、べや、ですよね……?」


 そう、二人は元の屋根裏部屋に戻ってきていたのだ。


 近くには『幸せなクマさん』の絵本が転がっている。表紙のクマは元は笑顔だったのに、今は前肢を振り上げて威嚇しているような格好だった。


 そして――戻ってこられたのはいいのだが、問題が一つ。


「ジャネットさん、どこにいるんでしょうか……?」


 フェリスは、恐る恐るつぶやいた。




 一方、絵本の中のお城では。


「あれれ……? レティシアも一緒に外に戻しちゃった……?」


 巨大にして凶暴なクマはきょとんとして首を傾げた。


「ちょ、ちょちょちょちょっと!? どうしてわたくしだけ残されてるんですの!?」


 置き去りにされたジャネットは涙目である。


「まあいいや、やっちゃったことはやっちゃったことだし! これからはお前がレティシアの代わりでいいや!!」


「良くないですわよーーーーーーーーーっ!!!!」


 ジャネットの悲鳴が城の外庭に響き渡った。

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