恩返し
朝食を終え、フェリスたちは食堂を後にした。
各自の部屋で準備を整え、廊下で再集合してから女子寮を出発する。
「ジャネットさんっ、ジャネットさんっ! 鞄、わたしが持ちますっ!」
フェリスがちょろちょろとジャネットの周りを走り回り、鞄を手に取ろうとする。小っちゃいフェリスを踏み潰してしまいそうで、ジャネットは冷や汗ものだ。
「鞄くらい、自分で持てますわ。フェリスはわたくしのメイドではないのですから」
「じゃあ、ジャネットさんを持ちますっ!」
「どうやって持つんですの!?」
「えいって持ちます!」
「えいって……」
勇んで両手を差し伸べるフェリス。その腕の中に飛び込んでいきたい衝動に駆られるジャネットだけれど、フェリスが潰れてしまうのは困る。
「さすがにわたくしを持つのは難しいのではないですかしら……」
「そうよ、フェリス。ジャネットの重さにあなたの体は耐えられないわ」
「重くはありませんわよ!? ええ決して! わたくしは羽のように軽やかですわ!」
ジャネットは全力で反駁する。そもそも三人の中では背丈もあって大人っぽいスタイルなのだから、体重もそれなりなのは当然なのだ。
アリシアが不思議そうに首を傾ぐ。
「最近フェリス、やけにジャネットの世話を焼きたがるわよね。どうしたのかしら?」
「わたし、ジャネットさんに恩返しがしたいんです」
「恩……? わたくし、なにかしましたかしら……」
ジャネットは腕組みして記憶をさかのぼる。
「してくれましたようっ! プロクス王国でわたしが変になっちゃったとき、ジャネットさんが止めてくれたじゃないですか。わたしのこと大好きだって言ってくれて」
「あ、ああ……そういうことも、ありましたわね……」
ジャネットは頬が焼けるのを感じる。あのときは無我夢中だったとはいえ、大胆なことを口走ってしまった。
「わたしがひどいことをしなくて済んだのは、大怪我してもわたしを止めてくれたジャネットさんのお陰です。だからわたしは、ジャネットさんのためになんでもしてあげたいんです!」
「なんでも、ですの……?」
「はいっ! なんでもです! なにがいいですかっ?」
フェリスは小さなげんこつを握り締め、目をきらきらさせてジャネットを見上げる。
きっと想定しているのは、肩叩きとか手料理くらいのものなのだろう。その無邪気すぎる姿にジャネットは気が咎めつつも、漏れる願いを抑えられない。
「じゃ、じゃあ……わたくしの恋人になってくださいます……?」
「ふえ……?」
きょとんとするフェリス。
――言ってしまいましたわ――――!!
ジャネットは全身が灼熱の炎に包まれるのを感じる。どうせダメに決まっている、フェリスから引かれてしまった、と後悔に苛まれる。
拒絶の言葉を耳にするのが怖すぎて、ぎゅっと目をつぶって縮こまっていると。
「分かりましたっ!」
「えっ……」
朗らかな返事に、ジャネットは耳を疑った。
「分かったって、なにがですの……?」
「ジャネットさんの『こいびと』になるんですよね? 分かりました!」
「いいんですの!? 恋人はそのっ……デートとかするんですのよ!?」
「そうなんですね! だいじょぶです! わたし、ジャネットさんと『こいびと』になって、『でぇと』します!」
恋人、の発音が覚束ない。
「フェリス……ちゃんと意味は分かってる?」
アリシアが心配そうに尋ねた。
「分かってます! 『こいびと』って、大好きな人同士がなるんですよね? わたし、ジャネットさんのこと大好きです。ジャネットさんと一緒にお出かけしたいですっ!」
フェリスは声を弾ませて、ジャネットの方に身を乗り出してくる。
いまいちよく分かっていない気もするジャネットだけれど。こんな絶好のチャンスを逃したら、自分は一生悔いることになるだろうと直感する。
「でしたら……、次のお休み、わたくしと二人でお出かけしていただけますかしら……?」
「はいっ! 楽しみですーっ!」
フェリスは顔を輝かせた。
大変お待たせしてしまって申し訳ございません。
書籍版の9巻が10/31に発売されます!
どうぞよろしくお願いいたします……!
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