朝ごはん
ジャネットは仰天してフェリスを引っ張り下ろそうとするが、手が届かない。奇怪な状況に思考が追いつかず、風魔術を使うことも思いつかないでぴょんぴょん跳ねていると、フェリスがすぽっと天井から頭を抜いた。
ベッドに墜落するフェリス。大惨事の予感に肝を冷やすジャネットだが、フェリスはベッドでバウンドし、再び天井にぶつかる。戻ってきてベッドに落ち、高々と跳ね返される。その姿は人というよりボールである。
放っておいたら無限に続きそうなので、ジャネットはフェリスに飛びついて止めた。
「ふぁ……ジャネットさん。助かりました」
のほほんと感謝するフェリス。
「怪我はありませんの!?」
ジャネットは生きた心地がしない。
「ぶつかる前に結界を張ってたから、だいじょぶです」
「それは良かったですけれど……、いったいなにが起きましたの?」
「なんか、ベッドでトランポリンみたいにポンポンするのが面白くて、魔術でもっと跳ねるようにしてみたら、天井に刺さりました」
緊張感のない報告である。
「危ないですわ! アリシアはどうして止めないんですの!?」
「フェリスがとっても楽しそうだったから……」
「楽しかったです!」
能天気な二人に、ジャネットは脱力する。業腹だがアリシアにフェリスの保護者役を譲っているからには、もう少しきっちり保護していてほしい。
「おはようございますっ、ジャネットさん!」
「え、ええ。おはようございます」
けれど、そんなジャネットの不満も、天使のようなフェリスの笑顔を見ると消し飛んでしまう。可愛ければすべてが許される。そしてフェリスは世界一可愛いのだ。
フェリスはアリシアに手伝ってもらって寝間着から制服に着替える。そのあいだ、ジャネットは目をそらして部屋の隅っこでしゃちほこばっている。女の子同士なのだから気にしなくていいとは分かっていても、どうしても恥ずかしい。
フェリスがアリシアに髪をとかしてもらい、リボンも結んでもらって、三人で部屋を出る。
女子寮の食堂は、焼きたてのパンの匂いでいっぱいだった。
壁際の長いテーブルにスクランブルエッグやサラダの材料などが置かれ、自分で選べるようになっている。三人は好きなおかずやパン、デザートをトレイに取って席につく。
「ジャネットさん、ジャネットさん! 一個だけメギドプリン残ってました! どーぞ!」
フェリスが小さな器に入ったプリンを差し出す。
「え……? メギドプリンは、フェリスの大好物じゃなかったんですの?」
「大好物ですけど、ジャネットさんにあげます! もらってください!」
「ありがとうございます……?」
首を傾げるジャネット。そこまで言われたら断るわけにもいかないので、メギドプリンを受け取る。
たわむプリンをスプーンですくい、口に運ぼうとするが……フェリスがじいいいっと見ている。よだれを垂らして見つめている。本当は食べたくて仕方ないのだ。
「えっと……やっぱり召し上がります?」
「だ、だいじょぶです!」
フェリスはぷるぷると首を振った。そのあいだも視線はメギドプリンから離れない。痩せ我慢しているのは明らかだ。
「わたくしは大丈夫ですから、フェリスが食べてくださいまし」
「で、でも……」
「わたくしはフェリスがおいしそうに食べているのを見る方が、自分が食べるよりずっと嬉しいですわ」
ジャネットは微笑んだ。




