巫女の喜び
「また逃げ帰ってきたのか! この恥さらしめ!」
探求者たちの大聖堂に、真実の巫女の怒声が響き渡る。
術師たちの立ち並ぶ正面には、イサカイが連れ帰ってきた術師が転がされている。応急処置もされておらず、半死半生で喘いでいる。
「せっかくワタシの力を授けてやったのに、オマエたちはなぜワタシの望みを叶えないのか! なぜワタシを女王様に逢わせてくれないのか!」
イサカイがつぶやく。
「授けてくださった力が少なすぎたから、ではないでしょうか?」
「なんだと……?」
巫女から漂う瘴気が闇を増し、怒りを表してわななく。不遜な発言を放った同胞に、術師たちはとばっちりを喰うのを恐れてざわめく。
「例の少女――フェリスの魔力が桁外れなのです。半端な力では、対処できないのかと」
「ワタシの力が半端だと言うのか」
「いえ、そんなことは。こやつがフェリスの髪を手に入れておりましたので、お確かめください。巫女様ならフェリスの魔力、どの程度のものかお分かりになるかと」
イサカイが手の平に数本の髪の毛を載せて差し出した。巫女が手招きすると、髪の毛が虚空を飛んで巫女の手元に引き寄せられる。
「たいした魔力ではないと思うが…………っ!?」
疑わしげに髪の毛をつまんだ巫女が、震え始める。瘴気が暴れて壁を舐め、石の椅子が軋み、大聖堂全体が激しく揺れ動く。術師たちは立っていることすら難しい。
巫女が叫んだ。
「女王様! 女王様! ああ女王様!!」
それは歓喜の叫び。巫女はフェリスの髪にうっとりと頬ずりし、何度も口づけをし、涙を流す。狂ったように舞い踊る巫女に、術師たちは唖然としている。
「どうされましたか? 巫女様」
イサカイが訊いた。
「これは女王様の魔力だ! なぜワタシに報告しなかった! 女王様はいらっしゃるではないか! わざわざ扉を開かなくても、この人間界に!」
巫女はイサカイの肩を掴んで揺さぶった。真っ黒な爪がイサカイの肩に食い込み、猛毒で溶かして蒸気を上げる。激痛に堪えながら、イサカイは答える。
「いえ、この髪の持ち主は、女王様ではありません。たった十の幼子なのですから」
「では、幼子の肉体に女王様が封印されているのだろう。その幼子は、『器』だ」
巫女はイサカイの肩を突き飛ばした。よろめいて倒れそうになるイサカイ。巫女は深淵の部屋をくるくると舞って石の椅子に戻る。
術師たちが顔を見合わせた。
「女王様が……?」「降臨していらっしゃる……?」「我らの世界に……?」「我々に逢いに来てくださったのだ!」「女王様!」「女王様!」「真実の女王に栄光あれ!」
愕然としていたのも束の間、熱狂に取り憑かれて斉唱する。術師たちは床に手を突き、額を打ちつけ、鮮血を流しながら祈りを唱える。誰もが血走った眼を見開き、萎びた唇を顎まで開いて笑っている。
巫女は石の椅子に腰掛け、脚を組んだ。艶やかにして荒い呼吸が大聖堂に響く。真実の巫女は血まみれの術師たちを指差して、高らかに命じる。
「『器』を破壊し、女王様を解放せよ。女王様の願いである、人類の浄化を果たすため」




