祝宴
バステナ王国の反逆者たちは、グスタフ卿やロバート卿など穏健派の貴族連合軍によって鎮圧され、本格的な戦争は未然に防がれた。
そしてプロクス王国の王都ヴァイスカでは、宮殿が一夜にして蘇っていた。
といっても、探求者たちの魔法生物が復活したわけではない。魔法陣によって転移させられていた本物の王宮が、術者の無力化と共に戻ってきたのだ。
その大広間では、フェリスたちがプロクス国王からもてなしを受けていた。長いテーブルは料理で埋め尽くされ、メイドたちがまめまめしく給仕をしてくれる。
プロクス国王がワインの杯を持ち上げる。
「貴国と我が国の平和を祝して。此度、プロクスが滅亡の危機を免れたのは、誠に貴殿らの功績である」
「ありがたきお言葉。今後も争いなきよう、両国で手を取り合っていきたいものです」
ロゼッタ姫が楚々とお辞儀する。
「ほら、レイン。こっちのタルトも美味しいわよ。あーん」
「あむっ」
天使ライラが黒雨の魔女レインにフォークでタルトを食べさせる。魔法結界でも張っているかのように二人の世界に入っていて、誰も邪魔できない空気が満ちている。
フェリスがアリシアを見上げる。
「肩の怪我は、痛くないですか……?」
「ええ、もう平気。あのくらいで倒れるなんて、私も一人前の魔術師には遠いわね」
アリシアはフェリスのほっぺたについたクリームをナプキンで拭う。祝宴が始まってから、フェリスはデザートしか食べていない。それでは体に悪いだろうと思うアリシアだが、今日ばかりは大目に見てもよいかもしれない。
プロクス国王が顎をひねってフェリスを眺める。
「特に貴殿の活躍は目覚ましかったと聞いている。相談なのだが、このまま我が国に定住して魔術長官になるというのは、どうだろうか?」
「……?」
リスのようにケーキを頬張ったフェリスが小首を傾げる。ロゼッタ姫が美しい眉をひくつかせ、フェリスの手を捕まえた。
「陛下? 残念ですが、フェリスはバステナ王国の民ですので。責任を持って我が国に連れて帰ります」
「そうですわ! フェリスは誰にも渡しませんわ!」
ジャネットもフェリスの前に腕を広げ、隣国からのスカウトを防御する。
フェリスは状況がよく分からず、目をぱちくりさせるばかり。けれど、みんなでごはんを食べるのは楽しい。平和な時間が一番だ。怖くても頑張って良かったと思いながら、雪苺のケーキをはぐはぐ食べた。




