表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
十歳の最強魔導師  作者: 天乃聖樹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

186/196

目覚めの刻

 飛び降りてきたばかりの尖塔を見上げ、少女たちは寒気を覚える。恐ろしく高い。アリシアが考える暇も与えず友人たちを引きずり降ろしたのは正解だった。でなければ躊躇で脚が固まっていただろう。

「王宮の使用人たちは、ついてきていないわね」

「ついてきていたら潰れていますわ……」

「まずは街に戻りましょう。食堂の女主人に相談して馬車を借り、王都を出るのがよいと思います」

 ロゼッタ姫に促され、少女たちは宮殿の敷地から駆け出す。

 だがそこには、往来を埋め尽くすほどの軍勢が待ち構えていた。重装歩兵が大盾で体を覆い、隙間なく並んで包囲している。重装歩兵の背後に布陣しているのは、弓兵と弩兵(どへい)。ワイバーンに騎乗した竜騎兵が、上空で槍を捧げて待機している。兵士たちは爛々と眼を光らせ、歯を剥き出しにして戦闘に備えている。

 少女たちは、四肢の力が萎えるのを感じる。圧倒的な多勢に無勢。プロクス国王が味方についたと喜んでいたのも錯覚、この国は少女たちの敵だった。

 孤立無援、故郷から遙か彼方の異国で、敵の指揮官が無情に告げる。

「王族を捕らえよ! 護衛の魔術師たちは殺せ!」

 指揮官の振り上げた手に呼応して、弓兵が弓を天に向ける。一斉射撃。風を引き裂き、空を真っ黒に染めて、無数の矢が降り注ぐ。少女たちが言霊を唱える隙もない。

 アリシアの体を、鋭い矢が貫き通す。

 小さな悲鳴と共に、アリシアが地面に倒れた。

「ア、アリシアさん!? だいじょぶですか!?」

 フェリスは呼びかけるが、返事はない。身動きもしないアリシアの体の下に、恐ろしいまでの勢いで血の池が広がっていく。抱き起こそうとするフェリスの手の平が、顔が、アリシアの血に染まっていく。

「あ……あ……イヤ……イヤです……アリシアさん……アリシアさん……イヤ……」

 見開いたフェリスの双眸から涙が溢れ落ち、目の焦点が合わなくなった。何も見ていない瞳が黄金色に輝き、太陽よりも眩い光が全身を包む。

 膨大な魔力がフェリスから噴き出した。衝撃が大地を陥没させ、轟風が軍勢を薙ぎ払う。兵士たちがぶつかり合い、分厚い鎧が軋み、剣を砕かれながら吹き飛ばされていく。

「フェ、フェリス……?」

 戸惑うロゼッタの前で、フェリスの体が浮き上がった。凝縮された魔力が光球と化し、フェリスの周りで震えながら回転している。みなぎる魔力に空間の圧力が増大し、地を這うようにして紫電が弾ける。

 荘厳な音色が鳴り渡り、天空に巨大な扉が現れた。秀麗な彫刻を彩るのは、十二の宝玉。扉に記されているのは、人の誰も知らぬ言葉。口に乗せるだけで、魂も打ち砕く言葉。

 天空の扉が開き、闇より深い漆黒の彼方から、純白の息吹が流れ落ちる。フェリスの体に注ぎ込み、さらにその光輝を増していく。

『愚かな人間たち……また絶望を繰り返したいのですか……』

 唇も動かさないフェリスの体から、美しい女性の声が響いた。

 奇妙なほど通る声を聞いただけで、兵士たちは戦意を失い、屈強な肉体がわななき始める。手から剣が滑り落ち、地で塩の柱となる。

「あなた、誰なんですの……?」

 ジャネットが問いかけた。いつものフェリスの、あどけない表情ではなかった。もっと大人びていて、果てしない憂いに満ちていた。

『我が名は――――――――。魔素の主にして、人類の……』

 女性は答えるが、名を聞いただけで少女たちは鼓膜に激痛が走り、耳を押さえてうずくまる。兵士たちも頭を抱え、血みどろの唾液を吐き散らかして地面を転げ回る。名を聞き取ることのできる人間はいない。

 フェリスが悠然と手を掲げると、天蓋に大きな魔法陣が描かれた。まるで世界を自らの落書き帳にでもするかのように、虚空に魔法陣が次々と描かれていく。その一つ一つから、燃え盛る光の柱が降り注いだ。

 プロクスの大軍が嵐に呑まれ、地が隆起して激動し、家々が崩れ落ちる。それは破壊の調べ。終焉の断罪を思わせる混沌。

 宮殿の窓に立つ『探求者たち』の術師が血走った眼を見張る。

「なんという魔力だ……あれは本当に人なのか……? 巫女様に捧げなければ……。あの力を持ってすれば、必ずや我らの悲願が……」

 術師の耳からも、黒い血液が滴り落ちている。宮殿の外壁に紋様が浮かび上がり、瘴気を凍りつかせて防御を固めていく。

 天空の扉から、偉大なる存在が顕現した。燃える炎の貌をしたレヴィヤタン、妖艶な美女エウリュアレ。伝説にのみ語り継がれる召喚獣である。

 召喚獣たちはフェリスの左右に舞い降り、喜びに身を震わせる。

「ようやくお目覚めになりましたか、女王様! 永くお待ち申し上げておりました」

 エウリュアレが愛慕の眼差しをフェリスに向ける。

「始めましょう、女王様。罪深き生命の浄化を」

 レヴィヤタンが高らかな笑い声を響かせる。

 天空の扉から白光が溢れ、燦然と輝くドラゴンが現れる。数えきれぬほどの天使も降臨し、栄光に満ちた軍勢が空を覆い尽くしていく。

 地上から見上げる少女たちは混乱する。

「なにが……起きているのでしょうか……」

「このままじゃ、大変なことになりますわ!」

 ジャネットは隷属戦争について思い出す。黒雨の魔女は大切なライラを敵に殺されて暴走し、人類との戦いを始めたのだとフェリスが言っていた。魔女の心を救ったのはフェリスだったのに、そのフェリスが同じ闇に沈むなど、あってはならない。

 けれど、ジャネットはどうやったらフェリスを止められるのか分からなかった。召喚獣やドラゴンや天使たちが布陣するところへ割り込んで、魔術師の卵にすぎない自分が無事で済まされるのか。ドラゴンの一息で消し炭にされるのではないか。そう考えると、膝が震えてしまう。

本日、書籍版8巻の発売日です!

どうぞよろしくお願いいたします!


https://herobunko.com/books/hero45/12607/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング

コミカライズがスタートしました!
試し読み
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ