相談
校長室。
部屋の真ん中に置かれた「影狼入り袋」を、校長がしげしげと眺める。
「なるほどのう……クーデターが起き、国軍や影狼まで拡張論者の側についたと……これは厄介じゃな」
「これ……どうしたらいいですかしら……?」
ジャネットは影狼入り袋を見ながら怖々尋ねる。
「そうじゃの……影狼を敵に回すと後々報復を受けて面倒じゃし……消してしまうのが一番かのう」
「け、けす!? 消しゴムで、ですかっ?」
フェリスはびっくりした。
「本気ですか、校長先生……?」
ロッテ先生も青い顔で確かめる。
校長はぺろりと舌を出した。
「冗談じゃ。魔法学校の地下には古い牢屋があるし、クーデターが終わるまでそこに閉じ込めておけばいいじゃろ。それから影狼をどうするかは、正常化した王宮が決めることじゃ」
「学校に地下牢があるのも初耳なんですが……」
小さな頃から生徒として通い、教師になってからも通い、ロッテ先生と魔法学校との付き合いはずいぶん長いが、まだまだ知らないことばかりだ。
影狼は袋から抜け出そうと暴れていたが、校長が杖の先を影狼の頭に当ててモゴモゴと呪文をつぶやくや、すぐにがっくりとうなだれて動かなくなる。影狼の口の端からはよだれが垂れていて、ちょっとあんまり大丈夫じゃない様子だ。
「王宮の方には、ワシが旧い友人たちに探りを入れてもらう。混乱を招かぬよう、クーデターについてはここだけの話にしておいてくれるかの?」
うなずく少女たち。
ロゼッタ姫が密書の入った包みを見せる。
「わたくしは和睦の密書を隣国の王宮に届けねばなりません。護衛を用意してほしいのですが」
「うむ……そのことなのじゃが」
校長はフェリスに視線をやった。
しゃがみ込んで目の高さを合わせるや、珍しく神妙な顔で問いかける。
「フェリス……お主は、バステナ王国の味方か?」
「えっ……?」
「バステナとプロクスが争えば、必ず周辺諸国が漁夫の利を得る。すなわち、和平を進めるということはバステナに味方するということじゃ。お主は……いずれかの勢力に肩入れするつもりはあるのか?」
「校長先生……?」
アリシアは校長の質問に困惑した。とても一介の生徒に尋ねることではない。まずもってバステナ市民であるからにはバステナの未来を願うのは当然ではないだろうか。
フェリスはおろおろしながら答える。
「え、えと、よく分かりませんけど……ロゼッタさんには幸せになってほしいって思いますっ! ロゼッタさんが泣いたり、怪我したりするのはヤです!」
「ふむ……ならば、フェリスたちに任せるのが正解じゃろうな」
「ふえ……?」
校長の言葉に、フェリスは目をぱちくりさせた。




