暗闘
影狼が床を蹴り、ロゼッタ姫に飛びかかってくる。
この間合いでは近接戦闘タイプの戦士に魔術師が立ち向かうのは不利だ。そう判断したアリシアは、後ろ手にドアを開けてロゼッタ姫の手を引っ張った。
「姫様!」
「はい!」
すぐにロゼッタ姫はアリシアの意図を察し、部屋から飛び出す。フェリスとジャネットも共に転がり出し、深夜の廊下を走る。
「あーあー、抵抗はやめてくださいってお願いしましたよねーえええ? 目撃者みーんな殺さなきゃいけなくなっちゃうじゃないですかー」
楽しそうに笑いながら、影狼が追いかけてくる。
「どうするんですの!?」
「教員宿舎の方まで行くわ! 戦闘教官の先生たちがいれば、なんとかなるはず……」
言いかけたアリシアの直近を、影狼の放った曲刀がかすめた。曲刀はブーメランのように回転してアリシアの横髪を切り裂き、アリシアはぞっとするのを感じる。
「おっと! あと少し足りなかった! 首を狙ったんですがねー」
戻ってきた曲刀を影狼がキャッチする。
少女たちは無我夢中で女子寮から飛び出した。
「あれ? さっきの人がいません! 諦めてくれたんでしょうか?」
「諦めたってことはないと思うけれど……」
アリシアは余計に胸がざわつくのを感じ、急いで辺りを見回す。
しんと静まりかえった庭園。虫の音さえ聞こえない。
少女たちは互いの背を寄せ合い、必死に四方を警戒する。どこから敵が襲ってくるか分からないから、震えが止まらない。
「べろべろばー!」
「ぴゃあああああっ!?」
突如、目の前に出現した影狼に、フェリスは反射的に手を突き出した。その手の平から魔力の塊が放たれ、影狼を吹き飛ばす。
影狼は悲鳴すら上げる暇もなく女子寮の壁に叩きつけられ、動かなくなる。
「あっ……どかーんってしちゃいました……」
「べきって音がしましたわよ……首の骨でも折れてるんじゃ……」
「あいかわらずフェリスは強いですね……フェリスのところに逃げてきて大正解でした……」
少女たちは恐る恐る影狼に近寄る。油断させておいて飛びかかってくるつもりかもしれないから侮れない。
「あ、あのー、起きて、ますか? おねむですか?」
フェリスは手近の木の枝を拾って、影狼の頬をつんつんとつつく。反応なし。
「ど、どうしましょう……アリシアさん……?」
「どうしたらいいかしら……影狼を倒したって宮廷に知られたら、反逆罪で処刑されてしまうわよね……」
「ふえええええ……」
フェリスはアリシアにすがりついてかたかた震えた。




