影狼
突然の襲撃者に、少女たちは身を寄せ合って縮こまる。
「と、盗賊ですの? どうしてこんなところに……?」
ジャネットが狼狽すると、ロゼッタ姫はこわばった面持ちで襲撃者を見据える。
「盗賊ではありません。あれは『影狼』……バステナ王家の汚れ仕事を任された、隠密部隊の装束です」
「バステナ王家ってことは、ロゼッタさんの味方なんじゃないんですか?」
「味方だったはず……ですが、こうしてわたくしを追ってきたということは、影狼は既にお兄様の手に落ちているということでしょうね……」
ロゼッタ姫の言葉に、襲撃者が肩をすくめる。
「イヤですねえ、姫様。アタシらは拡張論者に籠絡されたわけではありませんよ。協力関係にあるだけです。兄君殿下はアタシらの部隊を騎士団と同じ位置まで引き上げてくれるという約束でね」
武器を構えた相手に対し、ロゼッタ姫は毅然と糾弾する。
「だからといって、バステナを戦火の渦に巻き込むのですか。どれだけの民が苦しむと思っているのですか」
「さあ? それはアタシらの知ったこっちゃありません。物騒な世界の方が、アタシらを必要としてくれる人も増えるんでね、逆に素敵なんじゃぁないですか?」
襲撃者はケラケラと笑った。
「王国の影を担う者が、そんな安易な考え方を……」
「影に冷たくしすぎるからですよぉ、姫様。アタシらがどれだけ長いあいだ、王家に尽くしてきたか。どれだけ長いあいだ、なんの名誉も与えられず搾取されてきたか。知らない姫様でもありますまい?」
「それは……影が表に出るわけにはいかないでしょう」
「そんな役目に飽き飽きしたんでね、まあ流れに乗っかったというわけですよ。兄君殿下は姫様にはなるべく怪我させるなとおっしゃってるんで、大人しく投降していただけませんかね」
「お断りします」
ロゼッタ姫はゆっくりと後じさる、
襲撃者はロゼッタ姫を真っ直ぐに指差す。
「おっと待った、これ以上逃げないでくださいよ。最悪、姫様の命よりアレの回収を優先しろって言われてるんですからね、その小っこい首が飛んじまっても知りませんよ」
「アレとは……?」
アリシアが尋ねると、ロゼッタ姫は小声で答える。
「隣国プロクスに和睦を申し入れる、陛下の密書です」
「そんなものを預かっていらっしゃいますの!?」
ジャネットは目を丸くした。王都消失事件で黒雨の魔女の魔導具を持ち出していたときのことといい、相も変わらずちゃっかりしている姫殿下だ。
「さあ……こちらにおいでなさい。さもないと、せっかくできたお友達が、みぃんなバラバラになっちゃいますよ?」
影狼は笑いながら、ロゼッタ姫にじりじりと近づいてきた。




