逆賊
フェリスはロゼッタ姫の手を握り返す。
「わ、わたしになにができるか分かりませんけど、なんでもします! わたし、ロゼッタさんの友達ですから!」
「ありがとうございます、フェリス。あなたがそう言ってくれると、あなたのそばにいると、わたくしは自分の家にいるより安心です。……もうあそこは、自分の家とは呼べませんから」
ロゼッタ姫は唇をきゅっと結ぶ。
「ロゼッタさん……」
フェリスは胸が締めつけられるのを感じた。
前に招待されたとき、王宮はとてもきらびやかな場所に見えたけれど、その裏には恐ろしいものが渦巻いていたのだ。ロゼッタ姫が頼ってくれたのは嬉しいし、その期待に全力で応えなければならないと思う。
ジャネットがロゼッタ姫の方に身を乗り出す。
「わたくしもラインツリッヒの娘として、いえっ、姫様のと……友達としてっ、誠心誠意尽くさせていただきますわ!」
「私もお手伝いいたします……ただ」
それは決して簡単な道ではないだろうと、アリシアは考える。王宮と国軍を拡張論者に掌握されている以上、劣勢なのは姫殿下だ。その味方をするのは逆賊、最悪の場合は処刑される可能性もある。慎重に動かなければ、取り返しのつかないことになる。
「わたしっ、なにをしたらいいですか? 宮殿にロゼッタさんのお父さん助けに行きますかっ?」
「きゅ、宮殿はさすがに危ないのではないですかしら。今は敵の本拠地になっているわけですし……」
躊躇するジャネット。
「ええ。今はそれより……」
ロゼッタ姫が言いかけたとき、窓から小さな球体が飛び込んできた。球体は真っ二つに割れて平べったく広がり、そのまま魔法陣に変化する。魔法陣の中心から、無数のムカデが噴き出す。
「きゃー!? 誰の悪戯ですのー!?」
ジャネットが跳び上がる。
「……っ!!」
身を硬くするロゼッタ姫。
「待って。これ、悪戯じゃないわ!」
アリシアがフェリスを腕の中にかばい、フェリスが手を突き出して魔法結界でムカデを閉じ込める。
直後、窓から何者かが飛び込んできた。
部屋を照らしていた魔法のカンテラが叩き割られ、室内が闇に満たされる。
その何者かが、外の雲灯りをさえぎるようにしてゆらりと立ち上がる。顔もほとんど見えない盗賊のような装束をまとい、手には曲刀を握っている。
男か女かも分からぬ口がニイッと広がり、かすれた声が漏れた。
「こんなところまで逃げてくるなんて、悪い姫様だ……。さあ、おうちに帰る時間ですよ?」




