拡張論者
フェリスはきょとんとする。
「おとーさんが、おにーさんに捕まえられたんですか? 鬼ごっこですか?」
「鬼ごっこだったら、平和でよかったのですが……」
ロゼッタ姫は表情を曇らせる。
縮み上がるジャネット。
「ククククーデターですわー! 一大事ですわー! 早くお父様に連絡してなんとかしてもらわないと!」
「グスタフ卿は動けません」
「ま、まさか……お父様まで牢に入れられてしまったんじゃ……。処刑されてしまったんじゃ……!?」
「いえ、そこまでは。前もってグスタフ卿は紛争の平定という名目で、王都から引き離されていたのです。拡張論者にとっては最大の抵抗勢力ですから」
ロゼッタ姫の言葉に、アリシアが眉を寄せる。
「なるほど……かなり計画的に進められたんですね。目的はプロクス王国との開戦、でしょうか」
「ええ。事を起こしたのは、わたくしの次兄です。別に領土が欲しいわけではないようなのですが、このままでは家督は長兄が継ぐことになりますし、大きな功績が欲しいようです。スカラ大陸にバステナ帝国を打ち立てた中興の祖ともなれば、父君を退位させ長兄を流刑に処して次兄が王位に就くこともできますから」
フェリスは困惑する。
「な、なんでそんなことするんですか? 家族なのに、ケンカなんて……。家族って、仲良しさんなんですよね? みんなで助け合うものなんですよね? わたし、血の繋がった家族はいませんから、よく分かんないんですけど……」
「多分……そうですね。家族というものは本来、仲の良いものなのでしょう。侍女たちからはそのように聞き及んでいます」
「じゃあ……どうして……」
「欲は人間を壊すのです。権力欲、金銭欲、征服欲……そして王宮には欲を煽るものがたくさんあります。いえ、欲望こそが人間の本性、なのかもしれませんが……」
「ニンゲンって、やっぱり、ひどいんですね……」
「フェリス……?」
ぽつりとフェリスが漏らした感想に、アリシアは違和感を覚えた。
普段、フェリスはそんなことを言ったりしない。それに「やっぱり」とはどういうことだろうか。それではまるで、人間がひどいと以前から認識していたかのようではないか。だが、フェリスは人を疑うことも知らない無垢な子のはずだ。
そして……気のせいだろうか。「人間はやっぱりひどい」と言った瞬間だけ、フェリスの瞳がいつもと違う金色に輝いていたように見えたのは。
気のせいであってほしい、いやきっと錯覚だと、アリシアは自分に言い聞かせる。
「父君と長兄は軟禁。王国軍は拡張論者に掌握されてしまいましたし、このままでは隣国との戦争が始まってしまいます。王宮の誰が味方で誰が敵なのか、わたくしにはもう分からない」
ロゼッタ姫はフェリスの手を両手で握り締める。
「フェリスたちしか信じられる人がいなくて、わたくしはここに来たのです」




