訪問
夜。
食事を済ませたフェリス、アリシア、ジャネットの三人が、フェリスの部屋でカードゲームをしていると、突然コツコツと窓ガラスを叩く音がした。
すぐに見やる三人だが、窓の外には誰もいない。ただ深い闇だけが広がっている。
ジャネットはぞぞーっとした。
「え、えっと……今……」
「なにか……音、しましたよね……?」
フェリスもびくつく。
「幽霊じゃないかしら?」
「やめてくださいまし!」
ジャネットは即座にベッドの中に逃げ込んだ。
幽霊にしろ不審者にしろ、放っておくわけにもいかない。アリシアは戦闘用の杖を持って、窓際に歩み寄る。フェリスもアリシアの後ろに隠れてついてくる。
アリシアが警戒しながらゆっくりと窓を開けると、その下には女の子が倒れていた。
「フェリス………………」
弱々しくささやく女の子。
それは――ロゼッタ姫だった。
「………………ふう。お陰様で、少し生き返りました」
フェリスのベッドに腰掛け、ロゼッタ姫がカップを抱えて息をつく。
カップに入っているのは、寮母さん特製カボチャのポタージュだ。女子寮の庭で寮母さんが育てたリビングパンプキンを材料に、丁寧にコトコト煮込んだ逸品で、生徒たちには不動の人気を誇っている。
「ロゼッタさん、どうしてあんなとこに倒れてたんですか? いきだおれ、ですか?」
尋ねるフェリス。
「また王宮を抜け出して遊びにいらしたのですかしら……。それにしても、倒れるほど無茶をなさってはよくないと思うのですけれど……」
ベッドに逃げ込んでいたジャネットは、姿勢を正して床に座っている。
「遊びに来たわけでは……ないのです」
ロゼッタ姫はカップを膝に置き、声を落とした。
靴は擦り切れているし、服はボロボロ、普段は完璧にセットされている髪も今は乱れている。尋常な様子ではない。
少女たちは固唾を呑んで姫を見守る。
「わたくしは逃げてきたのです。……王宮から」
ロゼッタ姫は語る。
「逃げてきた……? 王宮でよくないことでもあったんでしょうか?」
アリシアが懸念する。
「王宮内部で穏健派と拡張論者の争いがあることは、皆さんご存じですか?」
「ごぞんじないです……すみません……」
ロゼッタ姫から確認され、フェリスは縮こまる。
「お父様から聞いたことがありますわ。拡張論者は戦を好み、なにかと理由をつけて他国に仕掛けようとするから、抑え込んでおくのが大変だと」
「ジャネットのお父様も私のお父様も穏健派なのよね。確か陛下も穏健派寄りだったはずだけれど……」
「陛下は……父君は、兄君に囚われました」
ロゼッタ姫が告げた。




