天使
華々しい光が門から広がり、空を満たしていく。
清浄な風が辺りの瘴気を吹き飛ばし、真っ白な羽が舞い散る。
「な、なんだ……あの門は! 私はまだ開いていないぞ!!」
術師は愕然として空を仰いだ。
圧倒的な光輝に包まれて、門の向こうから少女が現れた。
白い衣、きらめく髪、純白の大きな翼。
聖職者の錫杖のような装飾の施された大槍を握り締め、大空に屹立している。
見上げているだけで畏怖に駆られるような、神々しい姿だが。
「やっと! やっと還ってきたわ! 久しぶり世界! ただいま世界! わたしの愛したレインの世界!!」
少女――ライラは、なんの飾り気もない歓喜の声を響かせた。
「あ、あれ……天使、よね……?」
「う、美しいですわ……」
アリシアとジャネットは目を見張って震えている。
召喚獣と同じく、お伽噺の中にしか登場しない異界の存在。ただし、召喚獣と違って天使の伝説に特徴的なのは、なぜかそれらが少女ばかりだということ、そして神々の意志に従って動いているということだ。
「ライラさん!」
フェリスが呼ばわると、ライラは顔を輝かせる。
「じょ――ううん、ご主人様! ピンチ? ピンチなのかしら? わたしが手伝った方がいいかしら?」
「お願いします!」
「りょーかい!」
ライラは槍を真下に構えるや、大きく翼を羽ばたかせ、急降下した。
衝撃波が発生するほどの速度。フェリスたちを襲おうとしていた触手の群体に墜落し、槍を叩きつける。
ドオンと、大地を踊らす激震と共に、触手の群体が砕け散り、吹き飛んだ。
魔法生物イジラクドラは絶叫を響かせて後じさる。
天使ライラはフェリスのそばに飛び降りてひざまずく。
「ありがとう、ご主人様! 回廊の途中でちょっと迷っちゃったけど、なんとかたどり着けたわ! ここに戻ってこられたのは、ぜんぶぜんぶご主人様のおかげよ!」
「ご主人様……? この子、フェリスの召使いですの!?」
「召使いじゃないですっ、ライラさんです! ほらっ、黒雨の魔女さんが大好きだった人ですっ!」
フェリスは慌てて言った。
――天使が召し使い……? それって……。
アリシアは胸騒ぎがする。ずっと分からなかったフェリスの正体、その片鱗が覗いているような気がしたのだ。深く考えたらすべて崩れ落ちてしまうような、今の生活が否定されるような、激しい不安感。
ガデル族や召喚獣たちからフェリスは真実の女王と呼ばれている。探求者たちは女王への扉を開くことを切望している。その女王とは、もしかしたら……。アリシアは考える。思考が呼吸を荒げていく。
「さーて、わたしのレインはどこ!? ひっぱたいて正気に戻してあげないとね!」
ライラは勢いよく立ち上がり、戦場をぐるりと見回した。




