主の帰還
「ライラさん!? ライラさんが生きてるんですかっ!?」
フェリスは驚いて尋ねた。
それは、かつて黒雨の魔女が狂う原因となった少女の名前である。魔女の力を欲した国々によってライラは殺され、黒雨の魔女は復讐の修羅と化した……そう、フェリスは聞いている。
レヴィヤタンは肩を――炎のシルエットのような形をしているのでそれが本当に肩なのかは分からないが――すくめる。
「ライラは死んでおりますな。それは確実です」
「じゃあ……」
「ただし、かの娘はいまだ生まれ変わっておりません。記憶を保ったまま、こちら側とあちら側の狭間に留まっているのです」
レヴィヤタンの言葉にアリシアが眉を寄せる。
「煉獄にいる……ってことかしら?」
「人間たちの稚拙な認識で言えば、そう考えてもよいでしょう」
「どうしてライラさんは煉獄にいるんですの?」
ジャネットも尋ねた。
「強い未練があるのです……かの娘には」
「未練って、レインさんのことですよね!?」
「左様。黒雨の魔女と、かの娘の結びつきはそれほどまでに強かった……ゆえに、かの娘は現世を振り切ることができないのです」
「どうやったら、ライラさんを連れてこられるんですかっ?」
「女王様ならたやすいこと。ですが……そのためには一度、栄光の御座にお帰りいただく必要がございます」
「…………? なんでもいいです、とにかくライラさんに会いたいです!」
「では……、『私は戻る』と宣言してくださればよろしいのです」
アリシアには、にやりとレヴィヤタンが笑ったように見えた。
「待って、フェリス!」
奇妙な不安に駆られ、引き留めようとするが。
「……? わたしは、もどる……?」
フェリスは警戒心なくつぶやいた。途端、その瞳が虚ろになり、小さな体が倒れる。
「フェリス!?」
「しっかり! しっかりしてくださいまし!」
アリシアとジャネットはフェリスを抱きかかえて呼ばわるが、返ってくる言葉はない。まるで魂が抜けてしまったかのように、その体からは熱も、鼓動すらも消えてしまっていた。
「あれ……? ここは……?」
フェリスはぼんやりと辺りを見回した。
魔法学校の広場……ではない。
それは美しい神殿のような場所だった。
柱が立ち並び、一番奥には神々しい玉座がそびえ立っている。
レヴィヤタンがフェリスの前で、うやうやしく礼をする。
「真実の宮殿でございます。お帰りなさいませ、女王様」
「ああ……また帰ってきてくださって、嬉しゅうございます……女王様……」
レヴィヤタンだけではなく、召喚獣のエウリュアレも、眼に涙をいっぱいに溜めてたたずんでいる。
「わたし……ここに……来たことがあるような、気がします……」
ぼんやりとつぶやくフェリスに、エウリュアレがうなずく。
「はい、女王様はいらっしゃいました。ご友人が呪いで倒れたときに、その身を癒やしてさしあげるため。ここは真実の宮殿……女王様の、本当の家でございます」
「なんで、わたし忘れてたんでしょう……?」
「現世での小さな体、あの器では、高次の記憶や人格を維持できないのです。この場所は、人間たちなどには及びもつかぬ力に満ちた場所ですから」
「そ……なんですね……」
「女王様、今回は長く滞在してくださいますね? なんでしたら、このままここに留まってくださっても……」
「だ、だめです! 急がなきゃいけないんです! 早く、ライラさんを探しに行かないと!」
「そうでございますか……」
しゅんとするエウリュアレ。妖艶な美女なのに、叱られて犬のようにしょげている。
「ごめんなさい……」
人をがっかりさせるのが苦手なフェリスもしゅんとする。
「女王様のご命令とあらば、致し方ございません。しもべは女王様に従うことこそが務め。狭間の空間に至るための、扉へとご案内いたしましょう」




