扉
膨大な魔力が魔法学校の生徒たちの体から吸い取られ、黒雨の魔女を通して収束して、『探求者たち』の術式に注ぎ込まれる。
広場の上空に走った亀裂は、その幅を増して、空間に穴を拡げていく。その向こうに見えるのは、深い、深い、虚無。
「な、なにをするつもりなんですの……?」
警戒するジャネットたち。
辺りにみなぎる濃密な魔力、そして上空の亀裂から放たれる圧迫感は、尋常なものではない。
そのとき、フェリスの肩の上に炎の塊が出現した。小さく姿を変えてはいるが、少女たちはその外見に見覚えがある。召喚獣のレヴィヤタンである。
レヴィヤタンは『探求者たち』の術師の目をはばかるようにしてささやく。
「……これはまずい状況でございますな。このままでは、『扉』が開いてしまうやもしれません」
「『扉』って、なんですか?」
首を傾げるフェリス。
「世界の真理に繋がる扉でございます」
「真理……?」
「左様。森羅万象の法則、実存の理由と解答、生命がどこから来てどこへ向かうのか、究極の力、いと高き栄光の御座、そのすべてに手が届くところです」
「……………………?」
わけが分からない様子のフェリスに、レヴィヤタンは慇懃に肩をすくめる。
「要するに、あの扉が開いてしまえば、人間共の世界も大変なことになるということです」
「大変なことになるのは大変ですっ!」
フェリスは跳び上がった。
「どうやったら扉が開くのを止められるのかしら?」
アリシアが尋ねた。
「広場の空間が閉じている以上、通常の干渉は厳しいですな。まあ、女王様なら閉鎖空間ごと押し潰して魔法学校の生徒たちを皆殺しにすれば解決する問題ではありますが」
「そ、それはだめですよーっ!」
「申してみただけです」
「言うだけでも、めっですー!!」
「おお……女王様のお叱りを頂くのは久方ぶり……なんとも懐かしい」
「もしかして、フェリスに叱ってほしくてそういうことを言っているのかしら?」
「ふふふ……」
「この召喚獣はヘンタイですわ……」
笑うレヴィヤタンに、怯えるジャネット。
「あ、あのっ、誰も怪我させずに止める方法って、ないんでしょうか?」
「ないことはありません。外から閉鎖空間を解除できないのなら、内側から黒雨の魔女に解除させればいいのです」
「黒雨の魔女は正気を失っているように見えるのだけれど……」
「あぅぅ……解除してもらうのは難しいですよね……」
「如何にも。ゆえに、あれの意識を揺さぶって叩き起こす存在を連れてくればよろしいのです……魔女が誰よりも愛した娘、ライラを」




