黒氷
黒雨の魔女の胸に虚ろな穴が穿たれ、闇が噴き出す。
闇は渦を巻き、嵐となってフェリスたちを吹き飛ばす。
「ひゃあああああっ!?」
「なんですのーっ!?」
少女たちは広場の外まで弾かれ、互いを抱き締め合って闇の嵐に対抗する。
黒雨の魔女の瞳から、漆黒の雨が滴っていた。それは結晶となり、瞬く間にうずたかく積もって、彼女の体を凍りつかせていく。
涙を流したまま、氷像と化した黒雨の魔女。
魔法学校の尖塔、その鐘が、葬送を告げ知らせるかのようにして打ち鳴らされた。
噴水広場に、一人、また一人と、生徒たちがやって来る。自らの意思ではなく、まるで黒雨の魔女の涙に吸い寄せられるようにして歩き、広場に膝を突く。
「ど、どうしたの、みんな……?」
アリシアは問いかけるが、生徒たちが応えることはない。寒くてたまらなさそうに己の体を抱き締めてうずくまり、物言わぬ彫像となっていく。
黒雨の魔女の足下から伸びた樹の根が地面を這い、生徒たちを繋ぐ。生徒たちの体が吸い上げられた「なにか」が樹の根を通って、どくん、どくん、と黒雨の魔女の氷像に運ばれていく。
「魔力を……吸収しているみたいね」
「たいへんですーっ!!」
「助けますわよ!」
少女たちは広場に突撃するが、見えない壁に弾き飛ばされる。
「魔法結界ですわ!」
「破ります!」
フェリスは魔力の塊を叩きつけるが、結界は壊れない。
『探求者たち』の術師が笑った。
「貴様の馬鹿げた魔力の巨大さに対する策も考えず、巣に乗り込むとでも思ったか。この空間は既に『閉じた』。内部からでなくては破れぬ」
「破れなくても破るんですっ! レインさんは、わたしのお友達なんですからっ!」
フェリスはさらに大きな魔力の塊を生成し、広場ごと結界を押し潰そうとする。それでも結界は割れない。余計に壁が厚みを増していく。
「まだまだですっ!」
諦めないフェリスを、アリシアが止める。
「……待って。さっきフェリスが魔力を叩きつけたとき、その魔力がレインさんの方へ吸われていくのが見えたわ。わざわざ結界の外に私たちを追い出したのって……そういうこと、でしょう?」
「ふえ……?」
「どういうことですの?」
戸惑うフェリスとジャネットだが、術師は渋い顔をする。
「……子供のくせに、妙に察しがいいのだな、貴様は」
「じゃあ、やっぱりそうなのね。人質を取って、フェリスに頑張らせて、もっと魔力を稼ごうってつもりなのね」
「そのことに気づいても、意味はない。既に扉を開くための贄は確保した。不足かもしれんが……ならば干からびるまで絞り取るだけのこと」
術師は節くれ立った杖を振り上げ、禍々しい言霊を唱え始める。
黒雨の魔女、そして彼女に繋がれた生徒たちの体が脈動し、広場の上空に亀裂が走った。




