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十歳の最強魔導師  作者: 天乃聖樹


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学校ダンジョン

 黒雨の魔女が逃げたせいで周囲の疑惑が深まり、フェリスは焦った。


 せっかく黒雨の魔女と仲直りできた、仲良くなれてきていたと思ったのに、これでは過去の惨劇の二の舞だ。人類と黒雨の魔女の対立を招けば、隷属戦争の再来すら引き起こされるかもしれない。


 だが、そんなことを思い悩む時間すら、『探求者たち』の術師は与えてくれない。


 歪な形の杖を高々と掲げるや、しわがれた声で言霊を唱える。


「朗々たる蟲毒、悪辣なる魔の宴よ。深淵の深淵から現れ出で、常世の光を穢したまえ――クラウディ・シャドウ」


 杖の頂きから黒い狼煙が上がり、空を突いた。


 夜空に暗雲が広がり、月と星々を覆い隠す。


 大地に紫煙が噴き上がり、魔物たちが這い上がってくる。


 逃げ惑う生徒たち。迎撃する教師たち。


 楽しかった祭りの会場は、混乱の戦場と化していた。


----------------------------------------------------------------------


 魔法学校の廊下を、おどろおどろしい姿の魔物たちが徘徊している。


 ぬちゃり、ぬちゃりと湿った足音が響き、時折咆哮と悲鳴が上がる。


「た、大変なことになっちゃいました……」


 フェリスは友人たちとミドルクラスAの教室に逃げ込み、小さくなって震えていた。


 ミドルクラスAではお化け屋敷を出し物にしていたが、その比ではない。学校全体に魔物が蠢き、まるごとお化け屋敷のようになってしまっている。


 学校の周囲には奇妙な柱が生えてそれぞれに街の住民たちが囚われ、人が近づくとその住民に雷撃が走るような術式が仕掛けられていた。要するに見せしめである。


 術式を解除しようにも、近づいただけで人質を傷つけられるようでは、どうしようもない。壁も結界も存在しないのに、魔法学校の教師と生徒たちは学校の敷地内に閉じ込められてしまっていた。


 フェリスたちの隠れている教室に、廊下から生徒が転がり込んでくる。


「みんな、伝言! 講堂に先生たちが結界を張ったから、そこに避難しろって! 隣の教室にも伝えて!」


 ざわつく室内の生徒たち。


「ひ、避難って言ったって……」「……ねえ?」「魔物がいっぱい歩いてるじゃない……」「無理だよぉ……」


 誰もが怯えている。


 ジャネットがやきもきした。


「なに言ってますの!? ここは安全じゃないのですから、少しでも安全なところに行っておかないとダメですわ!」


「でも、途中で魔物に襲われるかもしれないし……」


「ここにいても襲われるかもしれませんわ! わたくしもラインツリッヒの娘として、みなさんをきちんと送り届けますから!」


「……………………」


 広がる気詰まりな沈黙。


 やるべきことは頭では分かっていても、気持ちがついていかないのだ。


 そこへ、アリシアが割って入る。


「大丈夫よ、みんな。責任を持ってフェリスが守ってくれるから」


「ふええええっ!? わ、わたしがですかあっ!?」


「できるわよね?」


「あ、え、えと……せいいっぱい、がんばりますけど……」


 震えながらうなずくフェリス。


 すると、生徒たちのあいだに安堵が広がる。


「フェリスちゃんが守ってくれるなら」「安心だね!」「フェリスちゃんとなら地獄にだってピクニックに行けるよー」「よろしくね、フェリスちゃん!」


 実技の訓練で何度もフェリスの圧倒的な戦闘力を見ているクラスメイトたち、信頼感は抜群である。


「なんですの、この反応の差は……」


 自分がバカにされているようで切ないような、みんながフェリスを認めているのが嬉しいような、微妙な感情に悶えるジャネットだった。

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