望まれぬ来訪者
おどろおどろしいフードの中で、眼が血走っている。
裂けて血の滲んだボロボロの爪、朽ち果てた歯。病的に青白い肌には、漆黒の魔紋が浮き出て明滅している。
禁術に身を侵された、『探求者たち』の術師。その喉から、しわがれた声が溢れた。
「ほら、私を殺してみるがいい。貴様の魔術を使ってみるがいい。さもなければ……この場の全員が死ぬぞ?」
「ふえ!? ど、どしてそんな酷いことするんですか!!」
フェリスは跳び上がった。
「どうして? くくっ……理由など別に要らんだろう。私は殺す、貴様は止める、それだけの話だ」
「なにか……変なことを企んでいるみたいね。フェリス、うかつに動かない方がいいわ」
アリシアは警戒してフェリスの肩を押さえた。
「様子見をする暇など、貴様らにはないのだがな」
術師が節くれ立った杖を掲げた。ひび割れた唇から言霊が紡がれる。
「苦痛の叫びよ、無知の慟哭よ、闇となりて像を成し、愚かなる民を滅ぼしたまえ――エクレストクレッジ」
杖の周囲に魔法陣が展開され、真っ黒な帯が産み出されて放たれる。帯はジグザグに蛇行し、触れた建物や木を呪いに染めながら、フェリスたちに迫ってくる。
そこへ魔法学校の教師たちが駆けつけ、陣形を組んで魔法結界を張った。
「お前たち! 後ろに下がりなさい!」「生徒は急いで避難を!」
術師の浴びせる魔術を、結界で阻止する。
『探求者たち』の術師が口角を吊り上げた。
「いいのかな? フェリスとやら、貴様が逃げれば、こいつらは死ぬぞ? 貴様が私の相手をするというなら、教師たちは見逃してやろう」
「わ、わたしっ、どうしたらっ……!?」
先生の言うことは聞かないといけないが、術師の脅しも怖い。フェリスは進退窮まる。
猫の姿をした黒雨の魔女が鼻を鳴らす。
「放っておけ。教師の命など、フェリスの関知するところではない。好きに殺させておけばよいのじゃ」
「でもっ……!」
「そもそも……本当に殺すつもりなのかも、分からぬしのう……」
「え? どゆことですか……?」
目を丸くするフェリス。
術師が肩をすくめた。
「敵に我らの意図を漏らすのは感心しないな、黒雨の魔女よ。せっかく協力してもらっていても、それでは困る」
「黒雨の魔女……?」
教師たちが困惑した。
「くく、愚昧なる者たちには分からないだろう。見せてやる」
術師が爪で魔導具のシリンダーを弾いた。
それが黒猫にぶつかるや、周囲に激しい焔が沸き起こり、あぶり出されるようにして猫の姿が少女の姿に変わる。
「くっ……また妙な術を……!」
漆黒のドレスをまとった黒髪の少女。伝説に刻まれし、黒雨の魔女そのものだった。




