がんばるおばけ
ミドルクラスAの教室をフルに使ったお化け屋敷。
闇魔術によって光の遮断された暗闇で、フェリスはじっと待機する。アリシアと一緒にこしらえた衣装を身につけ、ロッテ先生にヴァルプルギス向けのメーキャップもしてもらって、準備は完璧だ。
『みんな、お客さんが来たわ。失礼のないように、でも満足していただけるよう、しっかり怖がらせてね』
共鳴石という魔導具を通して、アリシアの指示がフェリスにも飛んでくる。
「がんばりますっ!」
フェリスは元気にうなずくと、巨大キノコの陰に潜り込んだ。
天井では黒雨の魔女レインが作ってくれたカースドアイテムが、禍々しいうなり声を漏らしながら飛び回っている。どこかで見たことのあるような姿のクマのヌイグルミも、レインに再び命を吹き込まれて迷宮をさまよっている。
フェリスが隠れているところに、お客さんの靴音が近づいてきた。ロゼッタ姫である。フェリスは手の平を握り締め、全力でロゼッタ姫の前に飛び出す。
大きな尻尾に、愛くるしい牙。
ごつごつと鱗の表現されたスーツ。お腹側に描かれた骨。
手足を覆う真っ赤なグローブと靴。
ドラゴンの化け物になりきって両手を掲げ。
「が、がおー! おばけですよー!」
精一杯の威嚇である。
ぱちくりと、ロゼッタ姫が目を瞬いた。
「がおー! 燃やしちゃいますよー!」
フェリスは一生懸命に怖い顔を作って、ロゼッタ姫にちょこまかと近づいてくる。とはいえ、生まれつきの顔がまったく怖くないので迫力がない。
しかし、ロゼッタ姫は臣民への気遣いに満ちた王女だった。フェリスが怖がらせようと頑張っているのであれば、怖がってあげなければいけない。そう思った。
「きゃ――――――――――――――――!!」
ロゼッタ姫は悲鳴を上げて駆け出す。あっという間にフェリスの視界の外へ消え去ってしまう。
――で、できましたっ!
残されたフェリスは小躍りする。自分も少しはミドルクラスAのお役に立てるのかもしれないと思うと、嬉しくて仕方ない。
――でも、ロゼッタさんはちょっと怖がらせすぎちゃったかもです……。
申し訳なくなり、次はもう少しソフトな感じで行くことにする。
なんて方針を考えているうちに、新たなお客さんがフェリスの担当エリアに近づいてきた。お姉さんたち五人のグループだ。
フェリスはいったん巨大キノコの陰に隠れ、それからさっきよりはゆっくりとキノコから出てくる。
「が、がお…………」
猫のように前肢を持ち上げ、小首を傾げて、控えめに脅かしてみた。
すると、お客のお姉さんたちは。
「え、なに?」「こんなちっちゃい子もいるんだー」「わー、かわいい!」
大喜びである。
こんなはずではなかったのに、と思うフェリス。
「がお! がおー!」
もっと大きな声で脅かしてみる。
「がおとか言ってるー!」「えらーい!」「がんばってるー!」
お姉さんたちはさらに大喜びである。
「あのあのっ、怖くないですか……? おばけなんですけど……」
じわりと涙ぐむフェリス。(お客さんが)泣いちゃうぐらい怖いお化けになるつもりが、(自分が)泣いちゃうお化けになってしまっていた。
「かーわーいーいー!!」
お姉さんたちは居ても立ってもいられず、フェリスを抱っこしてお化け屋敷を飛び出す。
「た、たすけてー」
「フェリスをどこに連れて行くんですの――――――――っ!?」
ジャネットが慌てて持ち場を離れて追いかけた。




