賓客
漆黒の空に花火が打ち上がり、華やかに編曲されたレクイエムの演奏と共に、ヴァルプルギスの夜が始まる。
フェリス、アリシア、ジャネットの三人は、大勢のお客さんが行き交う校庭でチラシを配る。
「みなさーん、よろしくお願いしまーすっ!」
頑張って大声で呼びかけるフェリス。
「ミドルクラスAの教室で、お化け屋敷をやっています。よかったら来てくださいね」
にっこりと微笑んで家族連れにチラシを渡すアリシア。
「べ、別に来なくてもいいんですけどっ! ……とぃぅか、来ない方がよろしぃですゎ……」
客の呼び込みをする気があるのかないのか分からないジャネット。
お化け屋敷でキャストをするときほど本格的ではないが、可愛らしい吸血鬼の衣装に身を包んだフェリスたちに、外部からのお客さんは目を惹かれて立ち止まる。
「お、おねがいします……ちらし……ちらし要りませんか……?」
ぷるぷる震えながらフェリスに宣伝の紙を差し出されると、断れる者などいない。瞬く間に何百枚と配ってしまい、三人は座り込んで一息つく。
「わたくしも、一枚いただいてよろしいですか?」
「……ふえ?」
聞き慣れた声にフェリスが顔を上げると、そこにはロゼッタ姫がにこにこして立っていた。
「ロゼッタさん!? えっ、えっ!? どしたんですかあっ!?」
跳び上がるフェリス。
「まさか……また王宮を抜け出して……」
危惧するアリシア。
「大丈夫です。今回はきちんと陛下におねだりして、外出許可をもらって参りましたから。いわゆる視察という名目です」
ロゼッタ姫の視線に釣られて三人が見れば、人混みの向こうから宮廷騎士の女性が必死の形相で走ってくる。
「姫えっ! 姫ええええっ! 勝手に遠くに行かないでください! 誘拐でもされたらどうするのですか!!」
「……ね?」
ドヤ顔のロゼッタ姫。
「ね、と言われましても……」
ジャネットは困る。
外出許可を得ていても相変わらずやんちゃなお姫様である。
「でも、嬉しいですっ! わたし、ロゼッタさんに会いたかったですーっ!」
「わたくしもです。フェリスは今日も可愛らしいですね」
フェリスとロゼッタ姫は手を取り合って再会を喜ぶ。
そのかたわらでは、哀れな宮廷騎士がぜぇはぁと肩で息をしている。
「飲み物、ありますよ?」
「助かります……」
アリシアが近くの露店からマンドラゴラジュースを持ってきて差し出すと、宮廷騎士は一気に飲み干して喉を潤した。
ロゼッタ姫が校庭を見回す。
「それにしても賑やかですね。魔法の大祭ヴァルプルギスの夜、話には聞いていましたが、王都の祭典にも負けない盛況です。フェリスたちはお化け屋敷……というものをやるのですね」
うなずくフェリス。
「はいっ。みんなで頑張って作りました! すごーく怖いんですよっ! わたしもお化けになってお客さんを怖がらせるんですっ!」
「まあ、フェリスがお化けに?」
「です! 泣いちゃうぐらい怖いお化けになります!」
「それは楽しみですね。わたくしも入ってよろしいですか?」
「大かんげーですー!」
フェリスはロゼッタ姫と手を繋ぎ合い、ミドルクラスAの教室の方へと案内した。




