ヴァルプルギス
ヴァルプルギスの夜がやって来た。
普段は落ち着いた雰囲気の魔法学校も、この日ばかりはお祭りモード。あちこちに大きな葉っぱのお化けが飾られて魔術の光を放ち、花壇にはゴーストのカカシが刺さって回転している。
校庭には、フロストキャンディーを真似したお店や、歴代の校長の顔をかたどった仮面、火魔術で的当てゲームをできるお店など、生徒たちが工夫をこらした露店が並んでいる。
生徒たちは思い思いの仮装に身を包み、今日という日に大はしゃぎしていた。閉鎖的な魔法学校が一般公開されるお祭りとあって、トレイユの街の住民たちも大勢押し寄せている。
そして、正門から堂々たるカボチャの馬車で乗り込んでくるのは、生ける伝説の大魔女たち。基本的に変わり者揃いで森や工房に引きこもっている彼女たちが公衆の面前に姿を現すのは、大ヴァルプルギスの夜くらいだ。
「あっあっ! 轟風の魔女ダラム様ですわ! なんて勇ましいのでしょう! 閃光の魔女スレイア様……とっても凜々しい! 凄まじい魔力が伝わってきますわ! わたくしは今、時代の生き証人になっているのですわー! ね、ね、フェリス!?」
「ふぁ、ふぁいっ!」
テンションの高すぎるジャネットに、フェリスはついていくのが精一杯だ。なんせジャネットときたら、さっきから少しでも大魔女をよく見ようと、カボチャの馬車を追いかけて夢中で走り回っているのだ。
「フェリス! 危ないわ!」
響き渡るアリシアの声。
「ひゃっ!?」「きゃー!?」
勢い余ったフェリスとジャネットが、カボチャの馬車の前に飛び出してしまう。反射的に突き出したフェリスの手の平から、魔法結界が発動した。激突する魔法ネズミ、急停止するカボチャの馬車。
辺りは騒然となる。
馬車から、轟風の魔女ダラムが降りてきた。いかつい顔つきを余計にしかめ、フェリスを見下ろす。
「大丈夫か。怪我など、していないか」
「は、はい!」
こくこくとうなずくフェリス。
「どうしましたか? なにか問題でも?」
近くに停まった他の馬車から、麗しき閃光の魔女スレイアも現れる。
「…………………………(しんぱい)」
少女と見紛う姿の、沈黙の魔女アーシクも心配そうに見守っている。
轟風の魔女ダラムは眉を寄せる。
「無事なら良かった。しかし……お前の先程の魔法結界……無詠唱だったな。しかも、表面は普通の人間だが、明らかに異質な魔力……壮絶なまでの魔法防御力……お前は……何者だ……?」
「えっ? えっ?」
慌てるフェリスの顎を、閃光の魔女スレイアが細い指でつまみ上げる。
「あなた……器ですね……? なんということでしょう……あのお方が、このような姿で再来なさるとは……」
「………………………………(やっと会えた。アレもきっと待っている)」
沈黙の魔女アーシクは青髪を揺らし、ぴっとりとフェリスに抱きつく。
まずい、とアリシアは思った。さすがは大魔女、一瞬でフェリスの異常さを見抜いてしまった。軍部や王家などの権力を嫌っている人たちだから、すぐ政治に巻き込まれるわけではないだろうが、常識に囚われない自由人ばかりだから余計に恐ろしい。
なんとかフェリスを引き離さなければならないとアリシアは焦るが、強力すぎる大魔女たちに囲まれてしまっていて近づけない。
「ふええええええ……」
フェリスは轟風の魔女ダラムに頭をよしよしされ、閃光の魔女スレイアにひざまずかれ、沈黙の魔女アーシクにすりすりされて、怯えきっている。
そこへ、タイミング良くというべきか、校長がやって来た。
「これはこれは、アーシク殿、スレイア殿、ダラム殿。よくいらっしゃった。我が校の生徒がご迷惑をおかけしたようじゃな。美味しいお茶とお菓子を用意させておるゆえ、どうぞこちらへ。さ、さ!」
などと半ば強引に、大魔女たちを連れ去る。
「アリシアさあーんっ!!」
フェリスは半泣きでアリシアの胸に飛び込んでくる。
「……危なかったわね」
アリシアは安堵の息をつきながら、フェリスを腕の中に包んだ。
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